北海道の東川町は大雪山系旭岳の麓に広がる美しい町。澄んだ水とおいしい空気、恵まれた環境で育った農産物……。
今回はスペシャルイシュー。「ここにキッチンが欲しい」という福田春美さんがかねてから気になっていた東川町の魅力を探ります。
北海道の最高峰・旭岳を
ゆっくり歩いて散策
旭岳トレッキング
旭岳の美しさを先住民のアイヌの人々はカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)と呼んで讃えた。
大雪山系の最高峰といえば標高2291mの旭岳。北に位置しているため、本州の3000m級の山々に匹敵する高山環境があるという。ロープウェイで標高1600m付近まで登ると目の前に広がるのは、高山植物が群生する、一周約1.7㎞の姿見の池散策コースだ。壮大なスケールの眺望と美しい花畑を楽しめる。 展望台で珈琲を淹れるガイドの中川さん。プロのスノーボーダーでもある。
Naturesを主宰する山岳ガイドの中川伸也さん曰く「姿見の池付近は高山植物が咲き乱れるビューポイント。7月上旬前後にはチングルマ、エゾノツガザクラなどが咲きます。私のガイドでは一周を1.5~2時間ほどかけてゆっくりと周ります。このトレッキングは高低差がゆるやかなので、初心者の方でも無理なく参加できます」。
避難小屋の石室。頂上までの登山道はここから続いている。
地面を這うように枝を伸ばすツツジ科の常緑小低木、キバナシャクナゲ。
いきなり登山はハードルが高いが、トレッキングならやってみたいという人、まずはここからおすすめしたい。
Natures(ネイチャーズ)
プロスノーボーダーで山岳ガイドの中川伸也さんによる、大雪山国立公園の山々を中心とした山岳、自然案内。
姿見の池散策(約2k m、約1.5~2時間):¥12000/1~3名、¥15000/4~12名、他コース有り、アレンジ可能。要問い合わせ。
☎050-1485-4613/090-1528-1037
mail:ols.natures@gmail.com
山と町をゆるやかにつなぎ
ライフスタイルを発信
Less Higashikawa
ショップ内のディスプレイ。店内には、国内外の家具や洋服、服飾雑貨、アクセサリーなど幅広く展開している。
2012年にオープンしたLess Higashikawaは、旭川市にある店に続いて2店舗目となる、オーナー浜辺令さんが手がけるセレクトショップ。もともと碁会所だったという建物をリノベーションし、1階は主に「衣と住」、2階には飲食スペースを作った。 生まれ育った東川での店作りにこだわる浜辺さん。
東川町の人口は約8000人。のどかなこの場所に「店を出そうと思ったきっかけは?」と問う春美さんに「東川の豊かさ」と答える浜辺さん。
「この町は大雪山系旭岳の雪解け水であるミネラルウォーターを生活水として使うことができる。暮らすにはとても恵まれた環境だと思っていて。もっと町の素晴らしさを知ってほしいんです」 東川メイドのお土産プロダクト。キーホルダー各¥1944、バッジ各¥1296
そんな思いを抱く浜辺さんの店は、単に商品を販売するだけでなく、ここから自然豊かな東川町の暮らしやイベントを発信していく、“基地”のような役目も果たしている。
Less Higashikawa(レス ヒガシカワ)
北海道上川郡東川町南町1-1-6
☎0166-73-6325
営業時間:11:00~18:00
定休日:水・不定
ON THE TABLE
「コミュニケーションスペースが欲しくて」作ったというLessの2階にあるのは喫茶、食堂、酒場を兼ねた飲食スペース。昼間は地元の食材を使ったランチや珈琲が楽しめる。週末は自然派ワインが楽しめる酒場に。音楽イベントなども行う。グリーンカレーが人気。
ON THE TABLE(オン ザ テーブル)
北海道上川郡東川町南町1-1-6 2F
☎0166-73-6328
営業時間:11:30~20:00、金・土・日~24:00
定休日:水・第1、3火
山で暮らす、遊ぶ、使うを
楽しむためのアイテム満載
SALT
ショップ外観。トドマツの経年による表情の変化を楽しみにしている。建物の設計と内装はLandscape productsに依頼した。
山に続く一本道の途中、突如として現れるカラマツのサイディング張りの建物。それが米山勝範さんが営む、セレクトショップSALTだ。
MOUNTAIN RESEARCHの山の食器「アナルコカップス」¥5400~。
ペンドルトンの生地と古材を使って作られたスツール。東川在住の木工作家によるもの。¥15800
扱っているのはアウトドアに関する全般。ウエアや日用品など、より実用的なアイテムが揃う。 勝範さんは東川町生まれ。ここに店を構えたのは2014年。
「大自然の中にぽつんとあるのが印象的でした。ここに店を出した理由は?」という春美さんの質問に、「アウトドアとの境目がないような場所で提案したかった。似た環境で製作している作家も多いので、そのほうがよりダイレクトに伝わるかと思って」と勝範さん。
「都会の人たちはアウトドアに行くためにわざわざ日にちを空けると思いますが、僕らはスノーボードもクライミングも日常のこと。自然が身近にあるからこそ、もっと面白くリアルに伝えられると思っているんです」 ロゴの看板を目印に。
SALT(ソルト)
アウトドアアイテムの他、レディスではデイリーウエア中心のファッションを展開。店内では珈琲も楽しめる。
北海道上川郡東川町東4号南1番地
☎0166-82-6660
営業時間:11:00~18:00
定休日:水・第1、3火
北の暮らしを体感できる
森の中のコミュニティ
北の住まい設計社
森の中にある廃校になった小学校。ここを譲り受けたことから始まった。
ハンドメイドで丁寧に作られた無垢材の家具で知られる、北の住まい設計社。経営者の渡邊恭延さん、雅美さん夫妻が廃校となった小学校で家具工房をスタートさせたのは1985年のこと。以来、その小学校周辺から少しずつ土地を拡げ、ショップ、ギャラリー、カフェ、ベーカリーと生活にまつわるさまざまな施設を増やした。
ショップ内の一角。国内外からセレクトした日用品などが豊富に揃う。
ラトビア製のバスケット。大¥9500、小¥5700。
家や家具、日用品を取り扱い、今では北の暮らしを丸ごと提案するまでに。 イラストレーターの岡美里さんに描いてもらったという横顔の自画像を持つ渡邊雅美さん。
「以前から毎年開催している夏至祭が気になっていた」という春美さん。雅美さん曰く「スウェーデンの夏至祭を参考にして。たくさんのキャンドルを灯して、マーケットやライブを開催しています」。
初夏の風物詩となっているこちらのイベント。短い夏を存分に楽しむ、北ならではのスピリットを体感できるのも魅力だ。 1928年に建てられた小学校にはクラシックな意匠が随所に見受けられる。
北の住まい設計社
東川ショールームは旭川空港から車で20分ほどの距離。同敷地内にはカフェ&ベーカリーも併設している。
北海道上川郡東川町東7号北7線
☎0166-82-4556
営業時間:10:00~18:00
定休日:水
東川 番外編
水の町、写真の町 ものづくりの町
自然と文化、バランスのとれた
東川町が放つ魅力
「大雪旭岳源水」に続く道は深い緑に覆われていた。
鮮魚が揃った人気店居酒屋りしり(北海道上川郡東川町東町1丁目6-14)。
今人気の高い東川町の魅力とは、自然の恩恵を受けた土地と文化度の高い暮らしが共存していることではないだろうか。北海道でも唯一の上水道の無い町で、大雪山連峰の旭岳の雪解け水が地下水となり、すべての家庭が蛇口をひねればミネラルウォーター!というなんとも恵まれた生活。もちろんこの水で育った米や野菜もご多分にもれずだ。 1985年に「写真の町」を宣言。写真文化の中心地として「写真写りの良い町づくり」を進めている。 町立の東川町文化ギャラリー。
そしてここは「写真の町」でもある。東川町国際写真フェスティバルや写真甲子園などを開催し、町ぐるみでイベントに取り組んでいる。 東川で生まれた子供たちに木の椅子が贈られる「君の椅子」プロジェクト。中村好文さんや三谷龍二さん、大竹伸朗さんらがデザインに参加している。 東川小学校は美術館のようなモダンな造り。
さらに、多くの家具職人が暮らし木工業も盛ん。著名人が参加した「君の椅子」プロジェクトなど、ものづくりの町としても名をはせる。 広大な土地を貫く一本道は北海道ならではの風景。
最後に、旭川空港から町内まで車で10分。アクセスも抜群によいので、豊かな暮らしを体感しに一度足を運んでみてほしい。
東川から行ける
近郊のおすすめスポット
東川まできたら雄大な自然を堪能できる十勝岳や美瑛町まで足を延ばしたい。おすすめビュースポットもたくさんある。車があれば、それぞれ半日で回れる。
01. 十勝岳
東川町から車で約55km。上富良野町にある十勝岳は、大雪山系十勝岳連峰の主峰で今も火山活動が続く。登山も人気で周辺には温泉もたくさんある。北海道の紅葉の中で一番早く観ることのできる場所としても知られる。
02. 美瑛
山の恵みを受けて誕生した神秘的な白金青い池。見る角度や四季によって色が違って見える。
東川町から車で約23km、美瑛町は丘のまちと言われる。
さまざまな農作物の畑がパッチワークのように見える。
パワースポットの白ひげの滝。
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PROFILE
福田春美 Harumi Fukuda
ライフスタイルストア〈コルテラルゴ〉、ホームケアブランド〈a day〉など、ファッションから暮らし系まで幅広く手がける。今回の旅で東川町の魅力にどっぷりハマる。
●情報は、FRaU2016年8月号発売時点のものです。
撮影:若木信 Text:Chizuru Atsuta