佐賀県の唐津は、歴史ある海沿いの街。伝統ある建築物や唐津焼の窯元めぐりに呼子港のとれたて鮮魚。古きをたずねて、新しきを知る。そんな大人の旅が始まる。
明治26年に創業され、120年以上の歴史を紡ぐ、虹の松原からほど近くに位置する洋々閣は、日本旅館を代表すると言っても過言ではない老舗旅館。ここで2月末まで期間限定でいただけるのが、冬に旬を迎えるあら(クエ)のあら尽くしのコース。11月に行われる唐津神社の秋季例大祭、唐津くんちの振る舞い料理として古くから親しまれるあらは、めったに食べられない高級魚。古きを守る宿でこそ食したい、粋な贅沢品である。
静謐で洗練された空間で受ける
上質のおもてなし
洋々閣
水打ちされた石畳みの玄関。凛とした気持ちになる。
大正元年に改築されて以来ほとんど変わらないという玄関の扉をくぐり、ケヤキの一枚板の敷台に迎えられ、素朴ながらも気品を放つ『洋々閣』に足を踏み入れると、凛とした空気にハッとさせられる。 椅子にもこだわりあり! 椅子は世界的な椅子のコレクターの永井敬二氏がセレクト。
建築家・柿沼守利氏が改修を手がけた客室は、現在も大工さんの手に支えられて美しく保たれる。
建築家・柿沼守利氏が改修を手がけた客室は、現在も大工さんの手に支えられて美しく保たれる。
明治・大正と石炭産業で潤っていた唐津の豊かさは、少しずつ改修を加えて現在まで保たれ、昔のままの客室も残り、京都の老舗「三浦照明」の手作りのあかりが暖かく部屋を灯す。設えられた家具、飾られる美術品、すべてがこの芸術品のような『洋々閣』を構成するのに欠かせないパーツとなっている。 館内から望める日本庭園には、美しく手入れされた樹齢200年の松の木が。 陶芸家・中里花子さんのギャラリー「monohanako」。 その父、陶芸家・中里隆さんのギャラリー。
「今あるものを守り引き継ぐことが大切との思いで本物にこだわっています。夕食はお部屋でゆったりと楽しんでいただき、その後、仲居が敷いたお布団で眠っていただく。日本人はもちろん、外国の方にも日本旅館の情緒を楽しんでいただけたら」。こう話すのは、5代目社長の大河内正康さん。 昆布だしに投入されるあら鍋の具は、脂ののったあらの身と、ネギ、白菜、春菊、エノキ、椎茸、蕪、人参、くずきり、餅、豆腐。鍋の最後には、絶品雑炊に姿を変える。
夕食にいただくのは、「あらを食べるなら『洋々閣』で」と言われるほど、おいしさに定評のある「あら尽くし」コース(2月末までの限定)だ。通常夕食は会席コースだが、前もって希望があれば、黒毛和牛のしゃぶしゃぶのほか、ふぐコースなど季節のメニューに変更することも可能なのだ。
透き通るアラの刺身を中里太亀さんの器に盛って。薬味を巻いていただいた後は、しゃぶしゃぶにしても。
花子さんの大皿でいただくあらのあら煮も絶品。
厳選した天然のあらと旬の野菜とともに供される料理は、館内のギャラリーで展示販売している、唐津焼の人気を牽引する隆太窯の陶芸家・中里隆さん、息子の太亀さん、娘の花子さんの器に盛り付けられる。実際に料理で彩られた唐津焼の皿は、ギャラリーで見るのとはまた違った魅力を放つ。
珍味、肝・胃袋・エラ皮は隆さんの器に。
あら鱗煎餅はつまみに最適。こちらも隆さんの器。
ユーモアあふれる仲居さんの心地よいおもてなしを受け、地酒を嗜みながら、ゆったりとした至福のひとときを味わう。聞こえるのは、波の音と虫の声だけ。世界の文化人がこの宿を愛した理由は、120年以上守られ続けてきた静謐な美しさと、温もりのある和の設えの中にあるのだろう。 朝食会場でいただく朝食は、大麦100%のおかゆを中心にした優しいラインナップ。
「物足りないよりは、もう食べられない!というくらい満足感を味わっていただけたら」と5代目が言う通りのボリュームだが、箸を休めることを忘れるほどのおいしさである。
洋々閣
佐賀県唐津市東唐津2-4-40
☎0955-72-7181
宿泊料:¥21600~48600(2名1室の場合)
※あら尽くしコース(3日前までに要予約)は特別料理のため、上記金額とは異なります。
●情報は、FRaU2018年2月号発売時点のものです。
Photo:Manami Takahashi Text:Tomoko Ogawa