現在公開中の映画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』は、宮川サトシさんの自伝エッセイ漫画が原作。大好きな母親をガンで失った、マザコン気味の息子サトシと、彼を取り巻く人々の日常が切なく暖かく描かれている。身内の死は、誰もが経験すること。とはいえ、宮川さんが直に体験した喪失と再生の物語は、独特の優しさとユーモアに溢れ、アマゾンのレビューやSNSでじわじわと話題となっていった。

「SEKAI NO OWARI」のボーカルFUKASEさんらが絶賛したことも手伝って、電子版は500万PVを記録。そんな話題作を脚本・監督したのは、『日日是好日』の大ヒットも記憶に新しい大森立嗣監督だ。笑って、泣けて、苦しくなって。でも最後には、誰もが自分の親に想いを馳せられるようなハートフルなこの映画で、松下奈緒さんは、安田顕さん演じるサトシを陰になり日向になり支える恋人・真里を演じた。

悲しいことを、
悲しいと受け止めるより、
悲しいことに対して
“大丈夫”って
言えることの方が、もっと悲しい

――初めての大森組に参加されたそうですね。

松下:大森監督に対しては、『ゲルマニウムの夜』のようなバイオレンスな作品や、『さよなら渓谷』のようなサスペンスなど、ハードな作品を監督されている印象があったんです。見た目も坊主頭だったりするので(笑)、少し緊張するなぁと勝手に思っていました。でも、現場に入ると、すごく優しく温かい方でした。

今回は、原作を読まずに現場に入ったのですが、監督からは「思うように演じてください」と言っていただき、麻里を作り上げていきました。監督は実際、とてもマイルドで優しくて、照れ屋で可愛い方でした。全くイメージを裏切られましたね(笑)。

 
――現場はいかがでしたか?

松下:最愛の人の死、という重いテーマを扱った作品ですが、すごく考えさせられる現場でした。悲しいことを、そのまま悲しいこととして受け止めるよりも、悲しいことに対して明るく “大丈夫” って言えることの方がもっと悲しいんだな、ということを思い知らされました。

現場では、アドリブというほどではないですが、その場で生まれる感情を大事にしながら、演じられた気がします。実際、サトシさんの母親役の倍賞(美津子)さんからは、何が飛んでくるかわからなかったですね(笑)。台本にはない方向に進んでいった時には、その場を楽しんで、続けていたお陰で、すごくフラットに、柔軟にいられたように思います。

 
――親の死がまだ身近に捉えられない若い世代にとっては、サトシのマザコンはいささか度が過ぎているという意見もあるようです(笑)。そのサトシに寄り添う真里は、とてもよくできた彼女という感じです。

松下:ふふふ。でも、私は、サトシさんはすごく愛情深い、素晴らしい男性だなと思います。この映画の中で、サトシさんのやっていることは全て、愛しているという、その純粋な思いから生まれていて、お母さんが大好きすぎることは、自然なこと。そうであってくれた方が、いつか、そういう人を好きになってよかったと思える瞬間がくるんじゃないかと思います。

男の人って、いくつになっても、お母さんが一番なんですよ。恋人や妻がそれを越えようとしてもかなう訳ないんです(笑)。真里のように、お母さんにできないことを見つけて、さりげなくアドバイスしたり、支えてあげたりする方が、男女の仲はうまくいくような気がしました。女性は多分男性よりも強い。だからこそ、優しさを見せていくことが必要なのかなって。

10代や20代の方だと、身内を失うイメージがなかなか湧かないかもしれませんが、私はこの作品に参加したことで、大好きな家族が死期を悟った時、どういう風に最期を迎えたいのか。どんな過ごし方をしたら一番幸せなのかを考えるようになりました。この作品に出会わなければ、まだ考えていなかったと思います。