『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』……。4冊からなる大河小説『豊饒の海』は、文豪・三島由紀夫が6年の歳月を費やした “絶筆の書” である。この “究極の小説” を書き上げた1970年 11月25日、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で、三島由紀夫は割腹自殺を遂げた。世界のMISHIMAは、最後に何を残したのか。彼が最後に書き綴った “世界” が、この秋、ついに舞台化されることになった。

「又、会ふぜ。きつと会ふ。滝の下で」という言葉を残し、20歳で命を落とした松枝清顕を東出昌大さんが演じ、清顕の影に取り憑かれた男・本多繁邦は、青年時代、中年時代、老齢時代で三人の俳優で演じ分けることに。

その中年時代を演じる首藤康之さんと、三つの黒子を持つ清顕の生まれ変わりとして登場する飯沼勲を演じる宮沢氷魚さんが、舞台の魅力を語る。

三島作品でも背伸びはせずに、
今感じ取ったことを大切に(宮沢)

――今回、この話題の舞台の演出を担当するのは、演劇の本場ロンドンのウエストエンドで、ネクストジェネレーションの旗手とされるマックス・ウェブスターさんです。よくいえば大胆、でも日本人からある種無謀とも思える挑戦ですが、首藤さんが今回、この作品に出演しようと思った一番の理由は何だったんですか。

首藤:スーパー無謀ですよね(笑)。うん。本当に!そう思います。でも、僕がこの舞台に出演を決めた理由は、それが三島由紀夫さんの作品だったからです。僕の場合、人生のいくつかのターニングポイントで、彼の戯曲と舞台上での出会いがあって……。

最初は、僕が20歳の時でした。フランス人振付家の手による壮大なバレエ作品でしたが、その時に、三島由紀夫さんの世界に足を踏み入れて、一気にほとんどの小説や戯曲を読みました。

それから、僕が30歳ぐらいの時にも、コンセプトとして彼の思想が入った、オムニバス的な作品をベルギーの王立モネ劇場で創ったことがあります。三島由紀夫の作品では、そんなふうに毎回、外国の方と組んでいるんです(笑)。今回も。だから不思議な縁だな、と。

 
――インターナショナルスクール育ちで、カリフォルニアの大学に進学した宮沢さんは、この舞台への出演が決まって初めて、三島由紀夫の本を手にしたそうですね。

宮沢:そうなんです。シェイクスピアなら、高校の時に原書で読んだんですけど、むしろ日本の作家には疎くて(笑)。でも、日本の学校なら、三島由紀夫は必ず読むものなんですか?

首藤:基本、読まないですよ(笑)。

宮沢:僕、今24なんですが、3年前からモデルの仕事を始めて、その時からずっと将来は俳優になりたいと思っていたんです。その時、周りの人たちから、「俳優になるには、本は読んでおいたほうがいい」とアドバイスされたので、なるべく本は読むようにしていたんですが、三島由紀夫は勝手に、もっと大人の本なんじゃないかと思って、手を出さなかった。

実際、今回も4冊通して読んでみたものの、あまり理解できませんでした。まだ台本を渡される前のことで、(主演の)東出さんから、「氷魚、原作読んでみてどうだった?」って聞かれたときも、「いや、難しいですね」と(笑)。

でも、東出さんも、「僕もそんなにわからなかったけど、今の自分の年齢で感じたこと、理解できたことを大切にしていきたいよね」とおっしゃっていたので、僕も、無理して、背伸びして全てを理解しようとせず、いま感じ取ったことを大切にしたいと思いました。でも、今回の舞台は、台本を読んだらすごくわかりやすくなっていて、ビックリしました(笑)。

首藤:台本は、すごくうまくまとめられてますよね。僕も、20歳で三島を読んだときは、氷魚さんと同じように、すごく感銘を受けた部分と、全く意味がわからない部分が混在していました。でも、面白いもので、人生の節目節目で読み直すたびに、以前わからなかったことがわかるようになったり。自分も人生を積んだことで、その思想に少し、近づいたというか……。ちょっとずつ寄り添えている感じはするんです。

でも、完全に理解することは不可能だとは思います。彼が生きた時代と、僕たちが生きている時代は全然違いますし、“今” は、彼の望んでいた社会とは程遠いものになっているとも思うので……。ただ、“大義” といったら大げさかもしれないですが、三島さんが後世に残したかったものは、人に何かを捧げる、人のために自分を捧げて生きていく精神だったと、僕は思っているんです。だから、彼は人のため死んだ。

今回の作品にも、人は何のために生き、何のために死ぬべきかという、人間の永遠のテーマが描かれているように思います。現代のようにさまざまな情報や物が溢れている時代に生きる中で、こういう深いテーマを内包した書物は、すごくいろんなことを教えてくれますよね。

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――では、首藤さんはこれまで、折に触れて、三島由紀夫の “大義” を肉体で表現してきたんでしょうか。無意識的に、かもしれないですが。

首藤:というより、何かを表現する仕事というのは、仕事それ自体に自分自身を捧げる行為だから。これだけの人が集まって、一つのものに向かっていく。それ自体がシンプルで、すごく古臭い、原始的な行為なんだけど、だからこそ、素敵なことだと思う。

こうやって、国境も時代も世代も超えて、作品というご縁で、つながることができる。まずは、そういったことに大義を感じながらやれば、いいものができるんじゃないかと思います。

 
――宮沢さんは、舞台はまだ2作目ですし、お二人は今回が初共演ですが、お互いの第一印象について教えていただけますか?

首藤:7月ぐらいに、舞台に出演されていて、それを観に行ったのが、彼を見た最初です。 THE BOOMの宮沢和史さんの息子さんだとか、今モデルをやっているとか、そういう前情報を全く知らされずに観に行って。舞台の真ん中に立った時に、まず “デカいな”、と(笑)。初舞台だったんですか? あれは?

宮沢:はい、初舞台でした。

首藤:すごく透明感があって、“初々しい” という表現がピッタリでしたね。20代の前半って、こんなに初々しいのかな。自分はどうだったっけ、なんて思ったりして(笑)。

宮沢:僕は最初……、モノクロの、すごくかっこいい写真を見せられて。それがシャープで、眼光も鋭くて、一緒にいるだけで全てを見抜かれてしまいそうな、そんな印象だったんです。

だから、実際にお会いするまでは、怖い方だったらどうしようって、勝手に緊張していました(笑)。でも、お会いしたら、ソフトで優しくて。笑顔がすごく素敵だなと。

首藤:ありがとうございます(笑)。

宮沢:それで一気に、ご一緒できるのが楽しみになりました。実際、僕は首藤さんとご一緒するシーンも多いし、いろんな舞台経験を積まれている首藤さんの作品への取り組み方を間近で見ることができて、すごく勉強になっています。

 
――宮沢さんは、英語ができることが、英国人の演出家の舞台に出演する際のアドバンテージにはなっていますか?

宮沢:直接英語で会話ができて、もちろんラクな部分もあるんですけど、今回は、通訳の方がずごく優秀なので……。

首藤:優秀だよね(笑)

宮沢:僕も、日本語から英語に、英語から日本語に翻訳しているのを聞くことで、勉強になっています。「どうやって訳すのかな?」って思っていると、毎回、「なるほど、確かにその通りだ!」って感心しています。

僕の中でぼんやりしていたイメージが、日本語と英語、両方で表現されることでクリアになるというか。むしろ、台本に出てくる文化や習慣について、僕らがマックスに説明を求められたときに、しどろもどろになってしまうことがあります(苦笑)。

首藤:彼が質問してくるからね。「なんでこういう風習があるのか、こういう理解でいいのかとか」とか。でもそれによって、僕たちも気づかなかったことに気づかされることもある。

僕たちの生きてきた時代は、西洋文化の方がむしろ身近にあって、日本の伝統的な風習や所作に関しては、むしろ外国の方から指摘されて学ぶことの方が多いくらい。普段僕らが疑問を持たないことに、疑問を持たれて、一緒に理解を深め、同じイメージをシェアしていくことが、今回はすごく新鮮です。

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PROFILE

首藤康之 Yasuyuki Shuto
1971年生まれ。大分県出身。15歳で東京バレエ団に入団。19歳で主役デビュー。数々の古典作品から、モーリス・ベジャール、イリ・キリアン、ジョン・ノイマイヤー、マシュー・ボーンなど、世界的振付家の作品に数多く出演。2004年の東京バレエ団退団後も、シディ・ラルビ・シェルカウイ、中村恩恵、串田和美、白井晃、長塚圭史など、国内外の振付家・演出家の作品に多数出演。自らプロデュース公演も手がける。ピナ・バウシュが芸術監督を務めるNRW国際ダンスフェスティバルなど、海外公演にも多数出演。近年は映画、テレビドラマにも積極的に出演し、表現の幅を広げている。2012年、第62回芸術選奨文部科学 大臣賞受賞。2019年 1月、白井晃演出の舞台『出口なし』に出演。http://www.sayatei.com

宮沢氷魚 Hio Miyazawa
1994年生まれ。米カリフォルニア出身。幼稚園から高校までをインターナショナルスクールに通い、2015年、第30回MEN’S NON-NO専属モデルオーディションで、グランプリを獲得。同年10月よりMEN’S NON-NOの専属モデルを務める。日本では、国際基督教大学に編入し、2017年 3月卒業。俳優としては、2017年ドラマ「コウノドリ」で俳優デビューし、ドラマ「トドメの接吻」「R134/湘南の約束」などに出演。2018年 7月、東京芸術劇場で上演された舞台『BOAT』(演出は劇団「マームとジプシー」主宰の藤田貴大)で初舞台にして初主演を務める。

INFORMATION

舞台『豊饒の海』

「又、会ふぜ。きつと会ふ。」という言葉を残し、20歳で生命を落とした男、松枝清顕。彼を生涯追い求める男、本多繁邦。そして本多の前に清顕の生まれ変わりとして登場する人々。三島由紀夫が約6年の歳月を費やした “世界解釈の小説” が初の舞台化。

脚本:長田育恵
演出:マックス・ウェブスター
出演:東出昌大、宮沢氷魚、上杉柊平、大鶴佐助、神野三鈴、初音映莉子、大西多摩恵、篠塚勝、首藤康之、笈田ヨシほか
2018年 11月3日(土・柷)〜12月2日(日)、紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演。☎03-3477-5858(パルコステージ)

 
Photo:Jihyun Shin Inteview&Text:Yoko Kikuchi

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