琉球の風にたなびく芭蕉交布と、思わず触りたくなる丸みをもつパナリ焼。手仕事の目利きとして世界を旅する、中原慎一郎さんが訪ねたのは、沖縄・八重山諸島の西表島と石垣島。
古い物語に描かれたような景色の中で、アジアの大地と暮らしが生むプリミティブな美しさを見つけました。
▼最初から読む!
島の布づくりは農業。
すべては植物の手入れから
西表島の旬を味わえる〈はてるま〉。珍しい高級魚から “母の味” まで。波照間島の泡盛も。
西表島の旬を味わえる〈はてるま〉。珍しい高級魚から “母の味” まで。波照間島の泡盛も。
古びとの暮らしを伝えるパナリ焼に触れた後は、ふたたび車にのって郷土料理の店〈はてるま〉へ。この味のためだけに本土から来島する人も多いという、予約のとれない人気店だ。
手摘みのもずく、衝撃的に旨い地魚の刺身、ゴーヤと島豆腐を炒めて煮ふくめた “ンブシー” 。自分たちで野菜を育て、魚を釣り、海に潜って食材を確保するというその味は、一口ごとに体が生き返るよう。
「どれも素材が格別。これほどの素材を自分たちで探して、ちゃんと生かせるって凄いよね」と中原さん。滋味深い島料理を、泡盛とともに堪能した。 八重山の植物で染織を行う、西表島の〈紅露工房〉。木陰で揺れる繊維の束は、丹精こめて育てた糸芭蕉から採ったばかり。艶やかで透けるように白い繊維を、糸に紡ぎ、染め、織って芭蕉交布をつくる。
翌朝は、沖縄の布文化を象徴する芭蕉交布のつくり手を訪ねて〈紅露工房〉へ。ここは染織家の石垣昭子さんが1980年に始めた工房だ。
赤の染料はヤエヤマヒルギ(マングローブ)の皮から採る。
島藍は発酵建ての最中。養分は泡盛と黒糖だとか。
芭蕉や苧麻を育てて糸をつくり、西表島に自生する島藍やフクギで美しい色に染め上げたら、昔ながらの機織り機で布にする。麻や絹と混ぜて織ることにより芭蕉がしなやかになる。工房の片隅でふわふわ風に揺れている織りは、工房名にもなっている紅露で渋い赤茶色に染めたものだ。 紅露染めの芭蕉交布でつくった蚊帳生地。
「これは芭蕉交布の蚊帳。知ってるかしら、蚊帳の中で寝ると風がヒヤーッとして涼しいのよ。ヨーロッパではバナナファブリックと呼ばれて、屋外の小さなベッドにかける天蓋にするんだって」と石垣さん。
伝統工芸だと思うと身構えてしまうけれど、なるほどインテリアにするのはとてもいい。だって純粋に使ってみたいと思わせるから。「そう、そうなの」と嬉しそうに笑った石垣さんは、「まずは畑を見に行きましょう」と、鎌を手にしてスタスタ歩き出した。
「布づくりは染めや織りだけじゃないの。大事なのは畑や山に入って植物を育てること。農業に近いんです」 「紅露工房」の石垣昭子さんと糸芭蕉の畑へ。糸芭蕉は18世紀の琉球王朝時代に東南アジアから伝わった。
工房の外に広がる畑に着くと、千本以上の糸芭蕉が育っていた。どれも人の背丈をはるかに超えている。「いい糸というのは、人がよく手入れした芭蕉から採れる糸よ。野生の芭蕉じゃダメ。余分な葉っぱを落として幹の中心に養分がいくようにすれば、艶があって丈夫な糸が採れる」
はてるま
沖縄県八重山郡竹富町字南風見201-101
☎0980-85-5623
紅露工房
沖縄県八重山郡竹富町上原
☎0980-85-6303
つづく……
次回更新は、11月10日(土)です! お楽しみに!!
PROFILE
中原慎一郎 Shinichiro Nakahara
1971年鹿児島県生まれ。1940~60年代のモダンデザインや民藝をルーツとしたものづくりを提案する「ランドスケーププロダクツ」を立ち上げる。東京のショップ〈プレイマウンテン〉のほか、サンフランシスコの店舗も好調。
●情報は、2018年8月現在のものです。
Photo:Norio Kidera Text:Masae Wako