2019年2月28日、22歳の誕生日を迎える芳根さん。その5日後に、彼女の初主演舞台は幕を開ける。人見知りを自認しながら、お芝居をすることで、自分ではない人間になり切ることで、全く違う人生を体験できることに、苦しみと快感とを見出してきた。

新たに挑戦するのは、「家族とは何か」「女性の生き方とは」といった壮大なテーマを、演者にも見る側にも問いかける骨太の人間ドラマ。舞台で、母の遺骨を抱えて放浪する三姉妹の三女を演じる芳根さんに、実の母とのエピソード、そして旅についての思い出を聞いた。

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“初めまして”が
大好きな母のことを
心から尊敬しています

――デビューして5年が経ち、順調にキャリアを重ねていっているように見えますが、女優になってよかったなと思うのはどんなときですか?

芳根:いろんな人の人生を生きられることが、楽しいです、すごく。『海月姫』だったら、オタクになれて、『べっぴんさん』では、娘から母になって、おばあさんになるまでを演じられたので、一回、一生を終えたような感覚があります。そう考えると、私はつくづく、「人生得しているなぁ」って(笑)。

人より長く生きているようなものだし、お芝居で演じた1日が、どんな人生よりも長く豊かに感じられることもある。このお仕事をしていなかったら、私の人生は、ある一定の幅の、一本の道の上を行くようなものだったのが、別次元の道を歩んだり、タイムスリップして、過去の人物のある時期を体験できたり。“人生” とか “時間” というものが、重層的になったんです。

それは、生き方っていう流れの話だけではなく、一瞬で生まれる感情も同じ。私一人の人生なら、ウジウジ悩んで、ふさぎこんでしまうような出来事も、役でなら、傷ついたり、悩んだりしながらも、バッと気持ちが拓けていく瞬間があったり。普段なら緊張して話せないような相手でも、役を通せば、お話ができて、心を通わせることができる。自分でも不思議だなと思うけれど、役を通してでないと体験できない感情がたくさんあって、そこは本当に面白いし、刺激的です。

お芝居の中だったら失礼なことを言っても「これはセリフだ!」って思えば、自分を納得させられる(笑)。普段なら絶対体験できないような強烈な寂しさや喜びや親しみが、お芝居でなら体験できるんです。
 

――舞台は、どんな作品が好きですか?

芳根:9〜11月に北海道でドラマの撮影をしていたんですが、そのドラマに、(京都を拠点とする劇団の)ヨーロッパ企画の方が参加されていて、ちょうどヨーロッパ企画さんの舞台の札幌公演があって観に行かせていただいたんです。それがすごく面白くって。お昼と夜で、別の演目を上演されていて、それも夜の部は新作で、お昼にやる演目の15年後の設定だというので、両方観たら合計で5時間ぐらい座りっぱなしだったのに、全く苦ではなく、ずっと笑いっぱなしで。「こんな面白い方たちと一緒にお仕事ができてるんだ!」と、あらためて嬉しくなりました。

夏には、松坂桃李さんの『マクガワン・トリロジー』という舞台を拝見して、その時は、松坂さんが魂を削りながら、舞台に向き合っている姿に圧倒されました。「私も頑張んなきゃ」って思いましたね。どんな舞台でも、見るたびに影響されます。

 
――お稽古に入る前に、何か準備していることはありますか?

芳根:体調を崩さないようにすることは今回特に意識しています。トマトが大好きで、普段からたくさん食べますし、フルーツが好きで、ビタミンをいっぱいとっているせいか、最近風邪を引かなくなりました。以前は、大切なことがある前日に胃腸炎になったりしていたんですが、今は逆に、常に胃腸炎になる覚悟でいます。「来るぞ」って思ってないときになると、ダメージが大きいので。気持ちにまず保険を掛けるつもりで(苦笑)。

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――舞台では、母と娘の確執というか、三姉妹それぞれの生き方と母の姿がオーバーラップしていきます。芳根さんは、お母様との関係はいかがですか?

芳根:母とは、すごく仲良しです。「尊敬する人は誰ですか?」と聞かれたら、迷うことなく「母です」と答えるくらい、本当に尊敬しています。3歳の時からの幼馴染にも、「京子のお母さん、今まで出会った人の中で最強だと思う」って言われたこともあるくらい明るくて、前向きで、人とコミュニケーションをとることが大好きな人なので(笑)。

「お母さん、気づいたんだけど、“初めまして” が大好きみたい」って突然言ってくるくらい強くって(笑)。この間は、会社から、何か盾をもらってきて、「何で?」って聞いたら、「職場を明るくしてありがとう、ってことで表彰された」って言うんです。「毎年誰かが表彰されるの?」「ううん、お母さんのためにできた賞みたい」って。本当すごいですよね(笑)。

 
――お母様には、この舞台に出ることは?

芳根:伝えました! 普段は、自分が悩んだときに相談することが多いんですが、それは、前向きな言葉が返ってくるのがわかっているから、背中を押してもらいたくて相談するんです。でも、今回は「どうしよう」じゃなくて、「やりたいという気持ちでいます」と報告したら、「いいじゃん、楽しみだね!」って。

 
――最後に、旅の話も少し。お忙しそうで、旅する時間はなさそうですが……。

芳根:出かけるのは大好きです。国内旅行が好きで、家族で箱根や北海道に行ったりします。今年は、お仕事で八丈島、北海道に2ヵ月弱、京都、新潟とか、地方にいる時間がたっぷりあって、楽しかったです。ドラマの撮影で滞在していた北海道では、毎日外食だったので、美味しいものをたくさんいただきました。母の実家が北海道なので、私が北海道にいる間に、両親がお墓参りにやってきて、1日だけ、家族水入らずで過ごすこともできました。

 
――今回の舞台も、三姉妹は旅をしています。

芳根:私、実はすごくロケが好きで。お芝居をしながら、ロケ場所の景色に助けられたことが何度かありました。今でも鮮明に覚えているのが、『べっぴんさん』の撮影の時に、自分の2歳の子供をおんぶして、出征した旦那さんをひたすら待つシーン。私が演じたすみれは、もう我慢の限界で、「会いたいね」と呟くんです。

淡路島で撮影したのですが、作品の中で意味のあるとても大事なシーンなので、監督の計らいで、リハーサルもテストもやらずに、ぶっつけ本番で演らせてくださって。娘をおんぶして、一人で立った瞬間に、感情が溢れて溢れて……。自分でも、泣き虫だとはわかっていましたけど、あそこまで感情が高ぶって、涙が止まらなかったのは初めてでした。あの景色は、きっと一生忘れないと思います。

つい先日、再放送を観たときも、あの時の感覚とか匂いとか、肌に触れる風とか、音とか、おんぶした娘の温もりとか、五感全部の記憶が蘇ってきました。風景って感情とシンクロする瞬間があるから、お芝居をしながら、心も体と一緒に旅をしているんだなって思います。

 
――舞台という閉ざされた空間の中では、演じる側も、観る側も、想像力を駆使しながら心の旅ができる。それは、舞台を観ることの醍醐味でもあります。芳根さんに導かれて見える景色があるはず。

芳根:舞台で生きる新しい私をお見せしたいです。地方公演も多くて、全国を回れるので。それもすごく楽しみです。

PROFILE

芳根京子 Kyoko Yoshine
1997年2月28日生まれ。東京都出身。2013年、ドラマ『ラスト♡シンデレラ』で女優デビュー。翌年、NHK連続テレビ小説『花子とアン』に、花子の親友・蓮子の娘役で出演。2015年1000人の中からオーディションで選ばれ、TBS系ドラマ『表参道高校合唱部!』で主役を演じる。2016年度後期のNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』ではヒロインを務めた。朝ドラ終了後の初主演ドラマは、フジテレビ月9の『海月姫』。2019年3月放送の北海道テレビ製作ドラマ『チャンネルはそのまま!』では主役の雪丸花子役、5月17日公開の映画『居眠り磐音』ではヒロインの小林奈緒役。

INFOMATION

舞台 パルコ・プロデュース2019『母と惑星について、および自転する女たちの記録』

三姉妹の母親が死んで1ヵ月。三姉妹は異国を旅している。彼女たちは母の遺骨を抱えていた。放浪してから1週間。目的もない、帰国の予定もない、やるべきこともない、そんな旅の中、ある日異国の市場に、死んだはずの母・峰子が立っているのを三姉妹は見る。あの母親は自分にとってなんだったのか。母親の突然死はなんであったのか。女四人の悲しくも愛おしい人間ドラマ。

作:蓬莱竜太
演出:栗山民也
出演:芳根京子(三女・シオ)、鈴木杏(次女・優)、田畑智子(長女・美咲)、キムラ緑子(母・峰子)
企画・製作:株式会社パルコ
【公演スケジュール】
・東京公演
2019年3月5日〜26日 紀伊國屋ホール
・高知公演 
2019年4月2日〜3日 高知市文化プラザかるぽーと 大ホール
・北九州公演 
2019年4月6日 北九州芸術劇場 中劇場
・京都公演 
2019年4月13日〜14日 ロームシアター京都 サウスホール
・豊橋公演 
2019年4月20日〜21日 穂の国とよはし芸術劇場 PLAT
・長崎公演 
2019年4月25日 長崎市民会館 文化ホール
 
http://www.parco-play.com/web/play/hahawaku2019/

ブラウス ¥48500、スカート ¥44000/ニンジニアネットワーク(リシュリュ)☎089-927-2288 ブーツ ¥29000/インドル(ダブル アンド エム)☎03-5808-3977 イヤリング/スタイリスト私物

Photo:Noriko Yamamoto Stylist:Daisuke Fujumoto Hair&Make-up:Kotomi Harada Interview&Text:Yoko Kikuchi

 
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