笠間の森に息づく、自由闊達な陶の世界vol.1/香菜子が旅する茨城

陶芸で知られる、茨城県笠間市。江戸時代中期から続く、歴史ある陶の地にして、伝統や製法にとらわれることなく、外からも作家を招き入れ、柔軟に発展してきました。

豊かな自然の中で生まれる自由闊達な作陶は、森で土と戯れ生きる原始の楽しさを、私たちに伝えるようでもあります。今、概念に縛られない、新しい陶の世界へ。

自然と共存するような
陶芸作品との出会い

眺めの良い高台に60点以上、土から生えてきたように群生する、高見沢美穂さんの作品「土の記憶より」。ひとつひとつ、手びねりで縄の模様をつけている。

夏が一段落し、穏やかな表情を浮かべる笠間の森。ヒノキの間をくぐり抜けて進むと、新しい生命を得た “土の魂” が、緑に溶け込むようにして、その姿を現す。土は火で焼かれると “陶” という造形物になる。静かな虫の声に耳を澄まし、森を吹き抜ける涼しい風を浴びながら、しばし。その不思議と彷徨う。

おとなり栃木県の益子町とともに、関東の二大陶芸産地として知られる茨城県笠間市。ここを旅するのは、プロダクトデザインやイラストレーションなど、豊かな暮らしのためのクリエイションにも重きを置くモデルの香菜子さん。笠間を旅先に選んだのには訳がある。

「実家が栃木なので、同じ北関東のお隣にある茨城は、もともと身近で馴染みのある場所。小さい頃は毎年、大洗へ海水浴に行きましたし、大学時代、美大で陶芸コースを専攻していて、勉強ついでに笠間の陶器市に来たこともあります。笠間には、美大で陶芸に取り組んだ当時の恩師と同級生もいるんです。でも、東京から近いとはいえ、なかなか訪れる機会がなくて。学生の時以来、22年ぶりになりますが、自分に大切なことを教えてくれた先生に、お会いできたら嬉しいですね」
 

 

美穂さんの作品に触れながら、ご本人に制作のことを聞く。この作品作りで笠間に滞在中、のちの旦那さんと出会ったという馴れ初めも。

まずは、4~5月の連休中に陶器市「陶炎祭」の舞台にもなる、笠間芸術の森公園で、大学時代の同級生で陶芸家の高見沢美穂さんと4~5年の時を経て再会した。美穂さんは、香菜子さんとともに陶芸を学んだ友人であり、香菜子さんが会いたいと話す恩師、伊藤公象さんの義理の娘さん。

2002年、この公園に設置する陶芸作品の制作がきっかけで、伊藤さんの息子さんと出会い、結婚したのだという。笠間の引力に幸せな旅の予兆を感じながら、公園内にある作品を案内してもらう。
 

「陶の杜」のエントランス。香菜子さんが歩いているところや階段石の石垣も、伊藤公象さんの作品の一部。左手にブルーのガラス質でできた陶の景色が見える。

伊藤さんがアートプロデュースを手がけた「陶の杜」では、自然の地形をそのまま生かした約5.6ヘクタールの広大な土地で、29人の陶造形作家の17作品と出会える。森の玄関で、伊藤さんの作品に迎えられた。
 

 

伊藤公象さんが陶で敷き詰めたピンクの山。地に咲くサクラのようにも見えて美しい。

足元に敷き詰められた平たい陶には、土の水分が蒸発し、凝縮する過程で現れた細かいシワのような「襞」が刻まれている。その連なりは、坂の上へ進むに連れてプクプクと湧くように膨れて盛り上がり、頂上に達すると、ブルーやピンクの宝石のように輝くガラス質の陶の山となる。固まった土の隙間からは、草や苔が顔を出す。年月をかけて、作品が森と一体化していくのを感じる。
 

 

森に突き出す、伊藤知香さんの作品。時が静止して、黒く固まったような風景。

森の玄関をくぐり抜け奥へと進むと、伊藤さんの奥様で陶芸家の伊藤知香さんの作品「マジシャンクレーのプラットホーム」も。誰もいない森の駅のホームに置かれた、陶のスーツケース、帽子やコート。魔女たちがどこかへ旅するための、秘密のホームのような……。想像を膨らませながら、さらに陶の森を進んだ。

美穂さんの作品は眺めの良い高台にあった。ウニョウニョと地面からきのこのように生えた、陶の黒い生体。群生する陶のモニュメントは、天を目指して伸びていく、生命体のようにも見える。

ヒノキの森に佇む “土の魂” たちは、何を伝えようとしているのか。緑や土と一体化するように佇む陶の作品が、笠間の入り口となった。

笠間芸術の森公園
茨城県笠間市笠間2345
☎0296-72-1990

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PROFILE

香菜子 Kanako
1975年、栃木県足利市生まれ。女子美術大学工芸科陶芸専攻卒業。在学中からモデルを始め、ライフスタイル誌やCMなどで活躍。執筆、イラスト、プロダクトの制作も手がける。著書にコーディネートブック『普段着BOOK』など。

 
●情報は、2018年11月現在のものです。
Photo:Norio Kidera Text:Asuka Ochi

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