陶芸で知られる、茨城県笠間市。江戸時代中期から続く、歴史ある陶の地にして、伝統や製法にとらわれることなく、外からも作家を招き入れ、柔軟に発展してきました。

豊かな自然の中で生まれる自由闊達な作陶は、森で土と戯れ生きる原始の楽しさを、私たちに伝えるようでもあります。今、概念に縛られない、新しい陶の世界へ。

 
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手法や伝統を飛び越える
“笠間焼” というスタイル

「陶の杜」を散策した後は、公園内の茨城県陶芸美術館へ。笠間の陶芸を知るに欠かせないこのミュージアムでは、練上手でという手法で国の重要無形文化財保持者にも認定されている松井康成氏の作品約300点を始め、800点余りの陶芸作品を集めている。エントランスをくぐった中庭には、2008年に発表された後、この中庭に設置された、恩師である伊藤公象さんの作品「土の襞 踊る焼凍土」がある。
 

凍らせた粘土を焼いて固めた伊藤公象さんの「凍土」シリーズの平面作品。

伊藤さんの一連の「凍土」シリーズは、粘土に水を含ませて泥状にしたものを凍らせ、霜が走った模様をそのまま焼いて形に留めたもの。有機的な線が走ってできたその土の表情は一見、木の表皮や炭のようにも見える。

雨風に吹きさらされる中庭に置かれた陶が作り出す風景には、打ち付けた雨の痕跡が残り、その表面は時とともに次第に苔むしていく。まるで自然に返ろうとしているようにも映る。陶芸の概念を超えたインスタレーションに心が動かされる。
 

伊藤公象さんの作品「土の襞 踊る焼凍土」。各地で発表された後、茨城県陶芸美術館の中庭に常設された。雨風を受け、自然の経年変化を重ねる姿までを楽しむ作品

「天気によってもだいぶ雰囲気が変わるんですよ」と、美穂さん。普段は入れない中庭に、特別に入れてもらった香菜子さんも興奮気味だ。

「大学時代、伊藤先生の作品と出会って、陶芸が器だけでないということを学びました。当時、陶芸といえば実用品だと思っていた私に、土に指一本でも触れたらそれは作品になるんだと教えてくれた先生の言葉は、今も心に残っています」

作ったら、それで終わりではない。森の中に設置された作品と同じく、雨風に晒されてところどころ汚れ、自然に返っていくような動的なプロセスだって陶芸にはあると、伊藤さんの作品は伝えているようだ。
 

笠間芸術の森公園にある陶芸美術館。この中庭に恩師である伊藤公象さんの作品が設置されている。

「粘土を凍らせると、自然の結晶が出る。このシリーズでは、同じものは二度とできない、その形を土に焼き付けて定着させているんです。凍らせるというプロセスは生命を奪うこととも言えますが、その形跡は有機的なフォルムにも似ています」

後に伊藤さんがそう説明してくれたように、ロクロを軸とした焼き物としての陶芸のイメージや範疇を超えたその創作が、大学時代の香菜子さんにも多大な影響をもたらしたことは、想像するに易しい。

金沢出身の伊藤さんと東京出身の奥様が笠間に移住したのは1972年のことだ。当時すでに、窯元は30程に減少していたという。笠間は衰退しつつある笠間焼の復興を図り、伝統や技法に固執せず、自由な創作を望む外部の作家を積極的に受け入れることで、陶芸の枠に縛られることのない個性に重きを置いた産地としての復活を果たしたのだった。

つづく……
次回更新は、2月2日(土)です! お楽しみに!!

茨城県陶芸美術館(笠間芸術の森公園内)
茨城県笠間市笠間2345
☎0296-70-0011

PROFILE

香菜子 Kanako
1975年、栃木県足利市生まれ。女子美術大学工芸科陶芸専攻卒業。在学中からモデルを始め、ライフスタイル誌やCMなどで活躍。執筆、イラスト、プロダクトの制作も手がける。著書にコーディネートブック『普段着BOOK』など。

 
●情報は、2018年11月現在のものです。
Photo:Norio Kidera Text:Asuka Ochi

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