俳優・満島真之介がいくつかの劣等感を克服した今、見つけたもの

世の中には、時代を映す様々な鏡がある。映画も、音楽も、美術も、演劇も。優れた作品が生まれてくるとき、そこには必ず “時代のうねり” が影響するものだ。平成が終わりを告げようとする今、演劇界では、時代の変化の中で揺れる人間の姿をあぶり出すような話題作・問題作が、次々と上演されている。

中でも、2014年、演劇の本場イギリスでも特に権威があるとされるローレンス・オリヴィエ賞の最優秀新作演劇賞を受賞した『チャイメリカ』は、ドラマ『おっさんずラブ』でブレークし、“2018年の顔” となった田中圭さんが出演することでも注目を集める。英国人女性ルーシー・カークウッドが若干29歳の時に発表した今作で、満島さんが演じるのは、田中さん演じる天安門事件に居合わせたアメリカ人ジョーの旧友である中国人ヂァン・リンだ。

この3年間は、舞台の上で
自分の肉体と精神を
曝け出す覚悟ができなかった

――舞台は、野田秀樹さん作・演出の『逆鱗』(2016年)以来です。満島さんは、2010年の俳優デビューも舞台ですし、2016年まではコンスタントに出演なさっていた印象があるので、ずいぶん久しぶりという感じです。

満島:正直言うと、この3年間の僕は、舞台ときちんと向き合える状態ではなかったように思います。物理的には、ドラマや映画への出演が多かったというのもあります。ただ舞台というものは、役者の肉体を通して、その精神性や生活ぶりまでお客さんに見抜かれてしまう。そのくらい取り繕えないものだし、嘘のつけない場所なんです。

『逆鱗』に出たのが26歳ですが、それ以降もいろんなオファーをいただきまして、やりたいと思うものもあった。でも、20代後半になってから、自分の肉体と精神が大人として成熟する部分と、少年のように、鋭くて頑なな部分とがアンバランスで。精神と肉体を曝け出すことが必須の舞台という場所に、ちゃんと立てる覚悟ができなかったんです。

 
――『チャイメリカ』のオファーがあったときは、その覚悟ができたタイミングだったんでしょうか?

満島:オファーを頂いたのは今から1年以上前のことで、その頃はまだ少し迷っていました。戯曲を読んで、すごく面白いと思ったけれど、ここまでの作品と向き合うにはまだ早いかなと感じたり……。ただ、僕は天安門事件の四日前に生まれているんです。天安門事件のあった1989年は、日本では、平成元年なんですよ。

僕はずっと、平成という時代に生まれたことや、自分の中に外国人の血が混じっていることに複雑な思いを抱いていて、社会から疎外されているんじゃないかというような不安と焦りが自分の中にあった。

でも、この作品からは逃げずに、体の中にあるいろんなものを駆使してぶつかってみれば、何か新しい光が見えるんじゃないかという予感がしたんです。だから、お話をお受けしてから、稽古に入るまでの1年間は、日々ちゃんと過ごさなきゃと。今は、2019年が、本当にいい状態でスタートしたなと思っています。

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――−平成生まれのコンプレックスというのは?

満島:ここまで高度な電子機器が普及していない、アナログな時代も知ってるんですが、10代になると、情報をめぐる環境がどんどん変わっていってしまって、友達と話していても、「俺たちの時代といえばこれだよね」という共通認識がほとんどないんです。

遊びやカルチャーが、自分たちに大きな影響を与える前に、ハードウェアがどんどん進化していって、それを追いかけるだけで精一杯だった。そのせいか、カルチャーに関するルーツが何なのかわからない。

僕の場合は祖父がアメリカ人なこともあって、自分でも自分がわからなくなるぐらい、いろんな心情や感情が渦巻いて、収集つかなくなることがあったりして、自分はこの時代に生きていていいのかというコンプレックスも抱えていたんです。

 
――でも、芸能界なら、その “人と違う個性” が武器になったのでは?

満島:子供の頃から僕は、芸能界というものに全く憧れがなかったんです。だから、映画もドラマもほとんど見たことがなかった。21歳の時、わけもわからないままこの世界に足を踏み入れて、チームでもの作りをする楽しさを知って初めて、「これは面白いぞ」と思った。

そこからつい1年ぐらい前までは、闇雲にエネルギーを発することに追い立てられていたような気がします。自分の中にあるのは、猪突猛進なエネルギーで、“エネルギッシュ” といえば聞こえはいいけど、いつも頭から湯気が立っているような感じでした。湧き上がる情熱をどこにぶつけたらいいかわからなくて、混乱していた部分があったんじゃないかな。

それが今は、まるで炭火みたいに、内側からじんわりと熱が生まれている。自分の体の中のエネルギーの沸々具合が、そうやって穏やかになってきている。今、自分の中で新たな感覚を発見する毎日です。

 
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PROFILE

満島真之介 Shinnosuke Mitsushima
1989年5月30日生まれ。沖縄県出身。2010年舞台『おそるべき親たち』でデビュー。2012年映画『11.25 自決の日 三島由紀夫とその若者たち』で報知映画賞新人賞、高崎映画祭最優秀男優新人賞に輝く。現在放送中の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』では、早稲田の応援隊長を経てスポーツ社交団体 “天狗倶楽部” に加入する吉岡信隆役。4月19日公開の映画『キングダム』では壁役で出演する。 

INFORMATION

舞台
世田谷パブリックシアター×パソナグループ『CHIMERICA チャイメリカ』

世田谷パブリックシアター×パソナグループ「CHIMERICAチャイメリカ」宣材写真(撮影:笠井爾示)

現代のニューヨーク。マンハッタンのギャラリーでの写真展では、天安門事件に居合わせたアメリカ人ジョー・スコフィールド(田中圭)が捉えた一枚の写真が人々の目を引いていた。2012年のニューヨーク、1989年の天安門。時代と国を行き来しながら、ジョーと彼の友人ヂァン・リン、そしてその周囲の人々が、写真に収められた瞬間から断ち切れない運命のうねりにのみこまれていく。

作:ルーシー・カークウッド
演出:栗山民也
翻訳:小田島則子
出演:田中圭、満島真之介、倉科カナ、眞島秀和ほか
企画制作:世田谷パブリックシアター パソナグループ
公演スケジュール:
東京公演 2月6日~24日 世田谷パブリックシアター
愛知公演 2月27日、28日 東海市芸術劇場 大ホール
兵庫公演 3月2日、3日 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
宮城公演 3月6日  多賀城市民会館 大ホール
福岡公演 3月9日、10日 福岡市民会館

 
Photo:Aya Kishimoto Styling:DAN Hair&Make-up:Akio Matsumoto Interview&Text:Yoko Kikuchi

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