2013年に英国で初演され大変な評判を呼び、14年のローレンス・オリヴィエ賞最優秀新作プレイ賞を含む5部門を受賞した舞台『チャイメリカ』が、ついに日本で上演される。天安門事件の際、買い物袋をぶら下げたまま戦車の前に立ち尽くす中国人男性=通称タンクマンと、その瞬間を捉えたアメリカ人ジャーナリスト・ジョーのその後を描いた壮大なフィクション。

平成という年号は日本独自のものだが、世界的に見ても、1989年に、世界の歴史は大きく転換した。1989年生まれの満島さんは、20代最後の年に、この作品に出演することに、運命的なものを感じていた。

 
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僕はもともと冒険家気質。
この世界に入る前には
自転車で日本一周の旅へ

――今回の舞台は、満島さんにいろんな発見をもたらしているんですね。

満島:ただ、今は稽古をしながら、ヂァン・リンという役は今まで演じた役とは比べものにならないぐらい難しいと感じています。そこまでセリフは多くないんですが、トラウマと向き合ったり、悲しみと向き合ったり、時代と向き合ったりするような場面ばかり。

でも、役者として生きる面白みは、作品を借りてそういう大きなものと真剣に向き合うことできることでもあると思う。特に舞台は、地球と一緒にリズムを刻んでいくような、人間本来の生活に戻れるような、自分の本能や生理に忠実になれる場所ですね。

映像は、朝でも夜のシーンが撮れるし、後から手を加えれば、いくらでもフィクションをリアルに作り込んでいける。でも舞台では、肉体にしても声にしても、役者の生きてきた人生しか見えない。すべてが、嘘や虚像で取り繕える時代に、数少ない “嘘のない場所” なんです。

どんなに自分を大きく、カッコよく見せようとしても、舞台の上では、虚飾や背伸びや装いは剥がれ落ちて、その人のありのままが全部バレてしまう。お客さんだって、それまで気づけなかった自分に気付けたりする。その日のその時というのを、感じられる場所なんです。

ちゃんと地球とつながる。この日とつながる。自分とつながる。それを確認できる場所が舞台。舞台は、誰もが “人間” に帰れる場所だと思います。そして『チャイメリカ』が内包するテーマは、演じる側だけでなく、観た人も自分の中の“人間としてのあり方”と向き合わざるを得なくなる。そんなパワーを持っているんじゃないかな。 

――お話を伺っていると、満島さん自身がとても野生的な部分を失わずに生きている人であるような気がします。

満島:アハハ。そうですね。もの作りをしているときは、まるでアフリカのサバンナにいるような気分だったりします(笑)。みんなで群れになって、次のオアシスまで生き抜くぞ、みたいな。去年(2018年)、NHKのドキュメンタリー番組でケニアに行ったんですが、ケニアで現地の人たちと移動しながら、まさに、そういう体験をしました。

僕はもともと冒険家気質で、この世界に入る前にも、自転車で日本一周の旅に出たりしていたんです。ケニアでも、「わ、すげぇとこに来ちゃった」という戸惑いは全くなくて、むしろ、「これこれ、この感じ!」って、サバイバルな日々が、すごく自分の生きているリズムにシンクロした。

役者をやっていると、役を通じて、違う時代、違う国、違う文化を体験することができるんですが、僕の舞台との関わり方は、アフリカで仲間たちと生き抜くこととすごく似ている。役者になりたかったわけではないけれど、やってみると、これしかできないじゃんと思ってしまっている自分がいる。人生って不思議に満ち溢れています。

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――仕事もプライベートも、ずっと旅をするように生きているんですね。ちょうど、旅についてのお話も伺いたいと思っていたところでした。

満島:なんだか最近、日本人が旅に回帰している気がしていて、それはとても嬉しいです。僕が日本一周の旅をしているときはよく、「なんでそんな目的のない旅に出てるの?」と、よく不思議がられました。「もっとやれることがあるんじゃないの?」と言われたことも多々あります。でも、旅というのは、人間が人間らしくあるためには、必要不可欠だと思うんです。僕がオススメしたいのは、“旅行” じゃなくて、あくまで “旅” ですけどね。  

――旅行と旅の違いとは?

満島:旅行は、行くところ、やることが決まっているもの。でも、旅は、その先に何があるかわからないものだと思ってます。旅は大事ですよ。どんどん出て行った方がいい。どこに行くかなんて関係なくて、僕は隣町でもいいと思う。いつもの路地の、もう一つ先を曲がるだけでもいい。何か新しい発見があればそれは全部旅なんです。

早起きして、朝日を見るのも旅だし、季節の匂いを感じるのも旅。地球と繋がっていると実感することは全て旅。散歩も旅。僕なんか今、自分の体の中を旅してますからね(笑)。作品と向き合いながら、「自分とは何か」を探す旅に出てるなぁ、と。

 
――『チャイメリカ』に出演するにあたって、中国の歴史のことを勉強したりもしたんですか?

満島:天安門事件についてはできる範囲で学びました。でも、中国でなぜ天安門事件が起こったのかとか、文化大革命について話したりするのはまだまだタブーなんですよ。付け焼き刃の知識で、外国人が批評したりできるようなレベルの問題じゃない。でもだからこそ、演劇があるんだと思った。

正面から批評や批判をするんじゃなく、人と人との物語にすることで、その事を知らなかった日本の人たちが、興味を持ってくれるかもしれない。役者は宣教師じゃないけれど、でも、僕は見てくださった人には、何かしらのメッセージを手渡したい。役者にもし使命があるとしたら、時代や人種、文化を超越した想いを、筒のように通していくことだと思うんです。

 
――田中圭さんとの共演は、2015年の舞台『夜への長い旅路』以来、2度目ですね。

満島:過去にその1度だけしか共演したことがないんですが、圭さんは、僕にとってはお兄さん的存在です。すごく信頼している先輩で、普段もよく会って話す関係。

今まさに旬の俳優である圭さんを一目見ようと劇場に足を運んでくれる方たちが、この舞台を観てどう思うのか、何を感じるのか。想像するとすごくワクワクします。きっとたくさんのことを感じてくれると思います。 

PROFILE

満島真之介 Shinnosuke Mitsushima
1989年5月30日生まれ。沖縄県出身。2010年舞台『おそるべき親たち』でデビュー。2012年映画『11.25 自決の日 三島由紀夫とその若者たち』で報知映画賞新人賞、高崎映画祭最優秀男優新人賞に輝く。現在放送中の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』では、早稲田の応援隊長を経てスポーツ社交団体 “天狗倶楽部” に加入する吉岡信隆役。4月19日公開の映画『キングダム』では壁役で出演する。 

INFOMATION

舞台
世田谷パブリックシアター×パソナグループ『CHIMERICA チャイメリカ』

世田谷パブリックシアター×パソナグループ「CHIMERICAチャイメリカ」宣材写真(撮影:笠井爾示)

現代のニューヨーク。マンハッタンのギャラリーでの写真展では、天安門事件に居合わせたアメリカ人ジョー・スコフィールド(田中圭)が捉えた一枚の写真が人々の目を引いていた。2012年のニューヨーク、1989年の天安門。時代と国を行き来しながら、ジョーと彼の友人ヂァン・リン、そしてその周囲の人々が、写真に収められた瞬間から断ち切れない運命のうねりにのみこまれていく。

作:ルーシー・カークウッド
演出:栗山民也
翻訳:小田島則子
出演:田中圭、満島真之介、倉科カナ、眞島秀和ほか
企画制作:世田谷パブリックシアター パソナグループ
公演スケジュール:
東京公演 2月6日~24日 世田谷パブリックシアター
愛知公演 2月27日、28日 東海市芸術劇場 大ホール
兵庫公演 3月2日、3日 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
宮城公演 3月6日  多賀城市民会館 大ホール
福岡公演 3月9日、10日 福岡市民会館

 
Photo:Aya Kishimoto Styling:DAN Hair&Make-up:Akio Matsumoto Interview&Text:Yoko Kikuchi

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