K-POP三大事務所の時価総額がavexやアミューズを超えた理由

株式市場でのK-POPの評価は?
飯田 一史 プロフィール

SMとYGの経営効率が悪い理由

ともあれ話を戻そう。ROEは別の式で計算すると「売上高当期純利益率」×「ROA(総資産回転率)」×「財務レバレッジ」(自己資本比率の逆数)になるが、資産をどれくらい効率的に使って経営しているのかを示すROAも見てみよう。SMは0.5%、YGは3.0%、JYPは13%だ。

なぜこんなにJYPが効率的なのか? バランスシート(B/S)を見よう(下表の単位は百万ウォン)。

売上規模が3分の1ということを差し引いても、JYPはYGやSMよりも圧倒的にB/Sが小さい。特に、有形固定資産を持っていない。このB/Sの大きさの違いはなぜなのか? 音楽事務所が持っている有形固定資産とはなんぞや? おそらく以下のような多角化のゆえにSMやYGのB/S、有形固定資産は膨らんだのだろう。

〈芸能プロダクション各社が少数の芸能人に集中する収益構造の改善を目指し、韓流の波及効果を生かして外食や旅行業など新事業に進出するケースが増えている。毎日経済新聞が伝えた。

少女時代やスーパージュニアを輩出したSMエンターテインメントは来月、所属タレントの写真などで装飾したレストラン「SMクラジェ」をソウル・清潭洞にオープンする。このレストランは、手製バーガーを販売する「クラジェバーガー」を運営するクラジェインターナショナルと合弁で設立した外食法人だ。

俳優のペ・ヨンジュンらが所属するキーイーストは、ソウル・新沙洞にレストラン「ゴリラ・イン・ザ・キッチン」を運営している。アイドルグループ「2PM」や「ワンダーガールズ」が所属するJYPエンターテインメントは、米ニューヨーク・マンハッタンにレストラン「クリスタル・ベリー」をオープンした。

芸能各社のこうした動きは、放送や広告、CD売り上げだけでは安定的な収益が見込めないと判断したため。特に、韓流ファンをターゲットにコンサートやファンミーティングをセットにした旅行商品を打ち出すなど旅行業への関心も高い。SMエンターテインメントはこのほど旅行会社のBT&Iを買収して旅行事業にも進出している〉
(「NNAアジア」2012年5月22日、「芸能プロダクション、事業多角化で生き残り」) 

 

文中にはJYPの名前もあるが、SMやYGに比べれば多角化ぶりはずっと少ない。

「JYPは外食や化粧品、ファッション、スポーツなどに事業を多角化した大手の同業他社と違い、系列会社がコンテンツ制作という本業に専念している」と「TWICE抱えるJYPが急成長 システム変え業界トップに」聯合ニュース2018.8.30にもある。

YGはたとえば済州神話ワールドにG-DRAGONがデザインに参加したカフェとボウリング場などがある「YGリファブリック」を持つなど、トップ2社は固定資産を使う(持たざるをえない)事業も多数手がけている。

また、会社の買収を多数手がけると「のれん代」(企業を買収したさいに、買収された企業の時価を上回って支払ったプレミアム分の価格。もちろん、のれんは「有形」固定資産ではなく無形資産である)のせいでB/Sが膨れがちになる。2018年にもペ・ヨンジュンが経営する俳優マネジメント会社・キーイーストを買収したように、SMがM&Aに積極的であることも(売上は増えるものの同時に)B/Sを太らせている原因ではないかと思われる。

ペ・ヨンジュン(Photo by gettyimages)

SMやYG(とくにSM)は事業を多角化し、傘下に多数の子会社を抱え、各国で現地企業との合弁会社を設立した。結果として、図体はでかいが資産効率は悪くなってしまった。

あるいは、K-POPに限らず韓国企業のいくらかがそうであるように、日本、中国以外の第三極とするべく――対日、対中関係が悪化して売上が激減しても倒れないようにするために――新興国市場を積極的に開拓しているがゆえに、目下の利益率は決してよくない、ということもあるのかもしれない。