2019年2月22日午前7時29分、JAXAの探査機「はやぶさ2」が日本から3億km離れた小惑星「りゅうぐう」に着陸したというニュースが、日本を沸かせた。宇宙への夢を抱かせる嬉しいニュースだ。小惑星への着陸は世界でも2005年に「イトカワ」に着陸した初代「はやぶさ」以来2例目の快挙だ。
しかし世界の“宇宙ビジネス”関係者は、全く同じ日の同じ頃(日本時間22日午前)、地球の反対側のフロリダ州から打ち上げられたロケットに、注目していた。
イスラエルの民間非営利団体「スペースIL(アイエル)」の持つ月探査ローバー「ペレシート(ヘブライ語で創世記の意)」が、アメリカのスペースX社のファルコン9ロケットに、インドの通信衛星、米国の実験衛星とともに相乗りで打ち上げられたというニュースだ。
ペレシートは洗濯機ほどの大きさで重さは180kg。離陸から30分後にファルコン9から切り離され、月に向かった。月面着陸予定は4月。これが成功すれば旧ソ連、米国、中国に続いて4カ国目の月面着陸成功となる。
日経新聞は、22日夕刊ではやぶさ2の記事を1面トップと社会面、翌23日朝刊で1面、社説、3面で取り上げている。だが、ペレシート打ち上げの記事は皆無だった。日本人はほぼ、この打ち上げが持つ重要な意味を知らない。
なぜこの打ち上げのニュースが重要なのか。それはこれが「月資源開発ビジネス」の幕開けだからである。
宇宙資源開発における国際ルールを作るために結成された国際有識者会議「ハーグ国際宇宙資源ガバナンスワーキンググループ」の社会経済小委員会委員である夫馬賢治・ニューラルCEOは話す。
「2019年は“月開発元年”です。
今年1月には中国製の無人探査機『嫦娥4号(じょうが4号)』が史上初めて月の裏側に着陸しました。そして2月にイスラエル企業のスペースIL、今年後半にはアメリカのベンチャーが月探査ローバーを月に向けて打ち上げます。
欧州企業も含めて、今年から民間のムーンミッションを背負った月探査ローバーがガンガン打ち上がりますよ」
今後、世界中から年に何台も無人の月探査ローバーが月面に着陸し、2020年代には数多くのローバーが月面を探査している状態になるだろうという。なぜなのか。彼らは何を探しているのか。
その答えは、「水」だ。
「各国の月探査ローバーは、大航海時代に世界中に資源を探し当てに行っているのと同じ。月の水を掘り当てに行っているんですよ」(夫馬氏)
月に水はまだ発見されていないが、ほぼ確実に“ある”と言われている。米ハワイ大学やブラウン大学の研究者たちが2018年8月20日に発表した論文には、その証拠も示されている。
月には地表数ミリメートルの深さに凍った水があると言われている。世界は我先にと、この水を掘りに一斉に宇宙に無人探査機を飛ばしているというのが真実だ。
なぜ各国は躍起になって「水」を探しているのか。巨額の資源ビジネスがそこにある。