治療した歯こそ、最も虫歯になりやすい――。この事実をご存じだろうか。さらに歯を失うことは、がんや認知症の発症とも大きく関係している。たかが歯と甘く考えていると、あとで痛い目を見る。
詰め物の下で虫歯が進行
「銀の詰め物の下が虫歯になっていますね」
「えっ本当ですか?」
「外からでは見えないのですが、レントゲンを撮ると、詰め物と歯の間に虫歯が進行しているのがわかります」
「でも痛みもないし、ちゃんと治療した銀歯が虫歯になるなんて……」
歯科医からの思わぬ告知に戸惑う患者。これは先ごろ(2月4日)放送されたNHK『あさイチ』の一場面だ。
「年とともに忍び寄る『歯』のトラブル」と題されたこの特集は、大きな反響を呼び、改めて歯科治療の難しさ、重要さが浮き彫りになった。
多くの人は「自分はちゃんと虫歯の治療をしているから大丈夫」「神経まで抜いているからこれ以上悪くならない」と思っているだろう。が、それは大きな勘違いだ。
「痛い思いをして削ってもらったことだし、これで一安心……と思うのは、大間違いです。実は歯は少しでも削られた瞬間から弱り始め、いつか歯を抜かなければならない運命にさらされるのです」
こう語るのは『名医は虫歯を削らない』などの著者で小峰歯科医院理事長の小峰一雄氏だ。
歯医者といえば、あの「キーン」という嫌な機械音がすぐに思い出されるように、虫歯になれば歯を削って詰め物や被せ物をするのが長らく常識となってきた。
だが、小峰氏によれば「『歯の治療=削る』はもはや古い考え方で、そもそも削るから虫歯になりやすくなる」という。
人間の歯は、中心部に「歯髄」と呼ばれる神経があり、その周りを「象牙質」という柔らかい部分が覆っている。そして表面を「エナメル質」の固い層が守っている。
「歯を削ると、表面のエナメル質に目に見えない無数の傷ができます。そこから虫歯菌が入り込んでくるのです。そのため、外からではなく内から虫歯になっていきます。
もっと言えば、詰め物の下の歯が虫歯になるのは再発ではなく、虫歯を削った時点ですでに、虫歯菌が中に入り込んでいるわけです」(小峰氏)
虫歯を削ると、そのときはうまくいったように思えるが、長い目で見ると歯そのものの寿命を短くしている。
「治療した歯こそ虫歯になりやすいのは、歯科医の常識」と語るのは、米国での歯学修士も持つ天野歯科医院院長の天野聖志氏だ。天野氏も削らない治療にこだわってきた歯科医の一人である。
天野氏が続ける。
「歯と修復物(銀歯など被せ物)の間には、どうしても隙間ができます。特殊なセメントを流しこんで埋めるのですが、それがやがて溶けてくる。その隙間から感染が発生し、見えないところで虫歯が進行していくのです」
最近は溶けにくい「レジンセメント」を使う歯医者が増えているが、まったく溶けないわけではない。年を取るごとに隙間ができてくる。