Photo by iStock

忍者と現代の「諜報活動」との意外な共通点

司馬遼太郎『梟の城』の読み方

人間ではないもの

梟の城』は、産経新聞記者時代の司馬遼太郎が宗教専門新聞『中外日報』に1958年4月から'59年2月まで連載した小説だ。連載時は「梟のいる都城」というタイトルだったが、'59年に講談社から書籍化された際に現在のタイトルに改められた。'59年下半期の第42回直木賞を受賞した。

織田信長による1579(天正7)年と1581(天正9)年の侵攻(伊賀の乱)によって、壊滅的打撃を受けた伊賀忍者は、各大名に雇われ、諜報や攪乱工作に従事していた。

伊賀の乱から10年経った1591(天正19)年、伊賀忍者の葛籠重蔵は、師匠の下柘植次郎左衛門から太閤秀吉を暗殺せよとの指令を受ける。この動きを甲賀忍者が阻止しようとする。徳川家康が伊賀忍者を、豊臣方の石田三成が甲賀忍者を運営し、代理戦争が展開される。

本書はミステリー小説の要素もあるので、読者から楽しみを奪わないようにネタバレを避けて論じるので、内容が断片的になることをお許し願いたい。

 

梟について、豊臣家の重臣の玄以と甲賀忍者の洞玄がこんなやりとりをする。

〈「われは何じゃ」

「梟じゃよ」

洞玄はからりと赤い口腔をみせて笑ってから、

「忍者は梟と同じく人の虚の中に棲み、五行の陰の中に生き、しかも他の者と群れずただ一人で生きておる。これで、ひとなみのさむらいの暮しが出来ると思うか。―そういう余計な心配をするよりおぬし」

玄以の肩を叩いて、

「五十貫文の約束は忘るるな。その金でわしは、また一人、女を養えるのがたのしみじゃ。そのためには、おぬしが出世をしてくれぬとこまる。蔭ながら祈っておくぞ」

摩利洞玄は、そう云い残して傷だらけの体を城から消した〉。

Photo by iStock

忍者は梟のように闇の世界を生きる。また、武士のような組織人ではなく、自らの腕だけで生きていくフリーランサーだ。だから、定期的に50貫文の支払いがなされる限り、雇い主との契約を誠実に履行する。

この作品の中で重要な役割を果たすのが甲賀の女忍者・小萩だ。

〈女はどちらかといえば大柄な体で、美人とはいえなかった。しかし細い清潔な目とゆたかな頬をもっていた。よほど無口なたちらしく、部屋の乾の片隅で、じっと両掌を厚い膝の上に重ねて畳の目をみている〉。

スパイは男女にかかわらず、極端な美男美女には不向きだ。人々の記憶に定着しやすいからだ。同じ理由で、極端に醜い人も向かない。気配を消すことができる目立たない人がいい。同時に人の心をつかむ心理学に通暁していなくてはならない。

小萩と重蔵は、21世紀のインテリジェンス戦争にも耐え抜くことができる資質を持った人たちだ。