高倉健、美空ひばり…「昭和スターの付き人」が明かす、苦労と喜び

苦しいこともあったけれど…
週刊現代 プロフィール

俳優の石井愃一氏(73歳)は19歳のときから4年間、渥美清の付き人を務めた。渥美は、プライベートを一切語らないことで知られた。だが、石井氏は濃密な時間を渥美と過ごした。

「付き人時代、私は週に5日は渥美さんの自宅に泊まっていました。私が渥美さんに受け入れられたのは、名前のおかげかもしれません。若くして亡くなったお兄さんの名前が健一郎さんなんですね。僕がケンイチなので、その名前の響きが似ていた。

渥美さんのお母さんに最初に会ったとき、ケンイチと名乗ったら喜んでくれた。当時の渥美さんは母一人、子一人だったので、『おふくろが気に入ってくれるなら』という思いもあったでしょう」

渥美から石井氏は一度も怒られたことがない。渥美はとにかく周囲に気を遣う人だったという。石井氏が明かす。

「『男はつらいよ』の1作目の結婚式のシーンに、私だけが遅刻したときも、渥美さんは怒らなかった。スタッフには『俺の用事で石井はちょっと遅れています』と言ってくれていたんです。

現場では、『大きな声で呼びたくないから、俺の見えるところにいてくれ』と言われていました。『おい、石井!』と呼びつけて、周囲に緊張感を与えるのを避けていたんですね」

 

ときには体を張る

大物俳優ではありながら、謙虚な姿勢を崩さない渥美に石井氏は多くのことを学んだ。

「役を作るときは『このキャスティングは、本当は自分ではなかったと思え』とアドバイスされたことがありました。『ほかの役者さんが演じるとしたら、どうやるのか、客観的に考えろ』ということなんです。

渥美さん自身も、『自分の中に残っている亡くなった俳優さん、あの人だったら寅さんをこうやるかもしれないなと考えたりした』とチラッと言っていましたね」

あるとき石井氏は渥美にこう聞いたことがあるという。

「どういう俳優さんになりたいんですか」

失礼とも言えるこの質問に渥美はこう答えた。

「やっぱり喜劇役者がいいよな」

石井氏が言葉を継ぐ。

「続けてどういう役者さんが好きかと聞くと『森繁久彌さん、いいよな。酔わせてくれる。三木のり平さんも笑わせてくれるよ。あとは藤山寛美さん。泣かせてくれるもん。いいよな~』と言っていました。

笑わせて、泣かせて、酔わせてくれる。この3つを目指したのが、渥美清なんだと思います。人を傷つけて笑いを取るようなことは一切しませんでした」

渥美は68歳で亡くなり、石井氏はその年齢をすでに超えている。

「渥美清に唯一、私が勝てるのは長生きしたということ。だから、私の頭の後ろあたりで、渥美さんは『いいなぁ~、おまえはまだやりたいことやっているな』って言ってるでしょうね」