ビジョンがないわけではない。このままではヤバいということもわかっている。ただ、具体的に何を作ればいいのかはまだ決まっていない――。このような津賀社長の「本音」が透けて見える。
社員にしても、「くらしアップデート業」とはいったいなんなのか、まだよくわかっていない。前出とは別のパナソニック幹部社員が答える。
「打つ手がない、それが津賀さんの正直な答えだと思います。それでも、資金のあるうちにあれこれやってみて、キングメーカーの位置を維持したいのでしょう。
問題は山積みです。まず、製造の軸がソフトに移行すれば、工場の統廃合や従業員の配置転換は不可避です。生産現場の人間には死活問題になる。
また、津賀さんは積極的に外部人材を幹部に登用しています。外部の意見が大切なのはわかりますが、これに敏感なのが出世街道を歩んできた幹部たちです。
これまで上から『死ぬ思いでやれ、血の小便が出るまで働け』と言われ、しんどい思いをしてきたのに、役員になる道は閉ざされた」
本誌は兵庫県宝塚市の自宅に帰ってきた津賀氏本人に、日経新聞の記事の真意を聞いてみた。
「申し訳ないけど、あの記事に関しては、あんまり取り上げられたくないんですよね……」
会社を変えなければいけないことは、リーダー自身深刻に受け止めている。ただ、何をどう変えるのか。まだ誰にもわからない。
「週刊現代」2019年3月9日号より