銀行業を超える地域商社
活路の一つは2月27日の論考でも述べたが、金融庁遠藤俊英長官が年明けに幹部に示した「遠藤ペーパー」にも明記されている「業務範囲規制の見直し」だ。
「継続案件の着実な進展」の項目の一つに掲げられている遠藤行政の重要施策だ。
具体的には「Data処理、地域商社、事業承継・事業再生(5%ルール)」と書かれている。
ここでは地域商社について取りあげる。総合商社、業界専門商社でも発掘できない地域の隠れた魅力ある産品やサービスを全国に販路拡大するため、地域に特化した商社を指す。
政府の「まち・ひと・しごと創生本部」も支援しており、全国に設立の動きが広がっている。ここへの銀行参入を金融庁も後押ししようというのだ。
既に山口銀行、大分銀行、肥後銀行などが中心となって設立・運営している。
北國銀行は4月中にも子会社北國マネジメント株式会社を通じて独自のECサイトの運営を開始する計画だ。
インターネット通販の巨人アマゾン・コムなどで負担となる出店コストを安価に抑えながら販路拡大を支援する狙いだ。
北國銀行はシステムのクラウド化、クラウド会計ソフトfreee(フリー)と組んだ、事業者向けサービスも進めるなど独自戦略を打ち出している。
他方、ある金融庁幹部はこう語る。
「今後は、多くの地方銀行にとって持ち株会社戦略が大きな意味を持つ可能性がある。従来は、実質的に他の銀行を傘下に置くための用途としてしかみなされなかったが、地域商社や事業承継、事業再生の専門会社、サービサーなど銀行とまったく同列の主力事業会社が総掛かりで地方の振興に取り組む戦略が重要となる」
しかし、多くの銀行は懊悩するかもしれない。なぜならば、冒頭の話に戻るが「アイデアマン」を排斥してきたのが多くの銀行であったからだ。
冒頭のエピソードは約10 年前のことだそうだが、決して時効とは言えない。当時、「アイデアマン」であろうとする信仰を捨て、組織への絶対的服従という「踏み絵」で選抜された学歴エリートは今、組織の屋台骨となる35歳以上の中堅・幹部職員となっているはずだからだ。
この論考で書かれていることすら、「おまえは現実が分かっていない」「理念では飯が食えない」と、旧態依然の価値観で拒絶反応を示すかもしれない。
決めるのは、筆者でも、そうした捨てられる銀行員でもない。「未来の金融」だ。
業務範囲規制の緩和と銀行外業務を収益化していくスピード、テクノロジーが人手の掛かっていたトランザクションサービスを代替していく驚異的スピード、銀行が全銀行員の高い給与をいつまで払っていけるのかという現実、これらの時間との勝負だ。
答えは「過去」にはない。このことだけは確かではないか。
橋本 卓典 (はしもと たくのり) 1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。09年から2年間、広島支局に勤務。金融を軸足に幅広い経済ニュースを追う。15年から2度目の金融庁担当。16年から資産運用業界も担当し、金融を中心に取材。『捨てられる銀行』シリーズ(講談社現代新書)は累計23万部を突破。2月13日、その第3弾『捨てられる銀行3 未来の金融 「計測できない世界」を読む』を上梓した。著書はほかに『金融排除』(幻冬舎新書)がある。