穏やかな内海に260余りの島々が浮かぶ、宮城県の松島湾。江戸の頃から天下の名勝と謳われたこの地域を、歩いたり、自転車に乗ったりして、巡ってみよう、と誘ってくれた雑誌『PAPERSKY』編集長のルーカス B .B .さん。松島の風景は、移動する速さが変わるたび、新しい表情を見せてくれました。

歩くスピードだから、
小さな風景も見つけられる。

大高森の展望台からの眺め。多島美が美しく、湾の反対側にある、七ヶ浜町まで一望できる。
 

船から降りて、いよいよこの旅のもうひとつの目的、ハイキングを始めることにした。最初に目指すは大高森。この島で最も高い標高105.8メートルの山だ。松島を囲むように4つの山があり、いずれも眺めの良さが自慢。昔の人は、それらひとつひとつに愛称をつけ、「松島四大観」と呼んだそうだ。富士は「麗観」、多聞山は「偉観」、扇谷は「幽観」、そして、大高森からの眺めは「壮観」なのだという。

片道10分の散策路を登っていくと少し息が上がった頃に展望台に到着する。広がるのは360度の大パノラマ。昨日から、さまざまな角度で眺めてきた松島湾だが、場所が変わる度に新鮮な感動がある。高台からの眺めは、ここまで登ってきた達成感も相まって、とびきり爽快だった。そしてルーカスさんはまた、ポケットから「萩の月」を出し、嬉しそうに頬張った。

薬師山の中腹にある医王寺薬師堂。

大高森を降りて、その足で向かったのは船長の阿部さんが教えてくれた薬師堂だ。船着き場の裏手に、見落としてしまいそうなほど小さな山道がある。車で移動していたら、きっと気づかず走り去ってしまうだろう。

歩き始めて5分も経たないうちに、ひやりとした神聖な空気が漂う岩場が現れた。人の手で水平垂直に掘られた岩穴の奥に、仏像が座を組んでいる。

政宗公が鹿の肉を煮たとされる炊事場はここだろう。井戸や焼き場の名残もある。ルーカスさんが中でも感動したのは、炊事場脇の石段。どれだけの人がここを歩いたのか。石はすり減り、すっかり角がなくなっている。

石壁を掘ってつくった炊事場の脇に、ルーカスさんが感動した磨り減った石段が続く。

「この階段、すごくかっこいいね」こうした小さな発見があるのも、歩くスピードで周囲を眺めているから。名所だけを点と点で繋ぐ旅ではきっと見えてこない。石段を上ったさらに先に、薬師堂が佇んでいた。

鈴を鳴らし、お参りをする。ふと、灯篭に目をやったルーカスさんが「あ!」と声を上げた。「見て。政宗の月の印が刻まれている」なんと灯篭の穴の形が三日月なのだ。

そういえば、昨日の夜空に浮かんだ月も、細い三日月だった。小さな偶然が重なり、旅をドラマチックにしてくれる。ルーカスさんの伊達政宗熱はさらに高まっているようだった

気になった道は進んでみる。ルーカスさんの旅は、自分の好奇心に素直だった。「行ってみようよ!」と進んだ、医王寺薬師堂を越えた先の山道で、湾を見渡せる小さな広場にたどり着いたことも。「ハイク&バイクの旅は、冒険する気持ちが大事」とルーカスさん。