防波堤とススキの揺れる大地。その間の道を走り抜けていくと、小さな漁港に辿り着いた。山積みになったホタテの貝殻。仕事をしていた漁師さんに使い道を聞くと「これに牡蠣の種をつけて育てるんよ」と教えてくれた。

松島は日本随一の牡蠣の生産地。一級河川のミネラル豊富な淡水と湾の海水が混ざりあい、大粒の牡蠣が育つ。松島から全国へと出荷される種牡蠣も多いそうだ。「どこかで牡蠣も食べたいね」とルーカスさん。漁師さんにお礼を言って、再び自転車に乗った。

立ち寄った小さな漁港。海に刺さっている竹が牡蠣を養殖するための牡蠣棚。他の地域では2年かかるところが、松島では1年で身が大きくなる。種牡蠣の出荷が多く、「牡蠣の故郷」とも呼ばれている。

さらに進んで小さな橋を渡ると、いよいよ宮戸島だ。交通量の少ない車道の脇をぐんぐん進む。トンボが周囲を飛び回り、自転車に乗りながらぶつかりそうになるほどだ。

「体を動かすとね、この土地に来たって実感が増すんだよね」ルーカスさんの言う “体を使って旅する楽しさ” が少しずつ分かってきた。

松島湾、最大の島・宮戸島。かつて武将・伊達政宗が狩りを楽しんだとされる小高い山があり、その登山道から続く脇道の先に小さな浜辺を見つけた。歴史との距離が一気に縮まる瞬間。この道を政宗も歩いたのだろうか。

緩やかな高低差のある山間の道を走ること40分。太平洋に面した小さな海岸に到着した。そこでルーカスさんがポケットから取り出したのは、仙台銘菓「萩の月」。

「昔から大好きなんだ。それに旅先に有名なお菓子があれば、到着後すぐ買うのが僕のスタイル。長崎に行ったらまずカステラを買うし、そうすれば道中のおやつになるしね」

海を眺めながら糖分補給。ふかふかのスポンジと甘いクリームを頬張ると、再び力が湧いてきた。

「萩の月」を食べながら浜辺で休憩。

「もう少し進んでみようか」。浜辺の脇の砂利道を走り、やがて辿り着いたのは月浜の民宿街。集落のアーケードを潜ってすぐのところで、竹藪へと続く小道を見つけた。

「どこに続いてるんだろう」と、自転車を停めて歩いて進んでみることに。藪を抜け、現れたのは新浜岬。偶然にも、宮戸島の絶景スポットのひとつだった。この岬は昔から、切り立った岩が馬の背に例えられてきた。そんな歴史を記した案内板を、ルーカスさんは熱心に読み込んでいる。

「ある程度の日本語は聞いたり、話したりできるようになったけど、読むのはまだ難しい。でも、旅先にはこういう案内板があって、そこには英訳が書かれていることもある。旅をしながらそれを読んで、少しずつ勉強するのが楽しいんだ」

新浜(しんはま)岬にて。馬の背を思わせる、切り立った岩場に松が茂る。「こんな風景に辿り着けるとは思わなかったよ」と、直感に従って小道を歩いてきたことを喜ぶルーカスさん。夏はスカシユリの花が咲く。

思いがけず出会った絶景をしばし味わってから、野蒜駅に戻ることにした。夕刻が近づき、気温が少し下がった気がする。気がつけば、潮の香りにも、飛び交うトンボにも、随分と慣れていた。数時間のサイクリングで、宮戸島が身近になったのは明らかだった。

PROFILE

ルーカス B.B.
アメリカ生まれ。1993年より日本在住。雑誌『PAPERSKY』をはじめ、さまざまなメディア、イベントを企画する「ニーハイメディア・ジャパン」代表。自転車で日本の地方を旅する「PAPERSKY Tour de Nippon」を主催する。

●情報は、2019年1月現在のものです。
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Photo:Norio Kidera Text:Yuka Uchida