穏やかな内海に260余りの島々が浮かぶ、宮城県の松島湾。江戸の頃から天下の名勝と謳われたこの地域を、歩いたり、自転車に乗ったりして、巡ってみよう、と誘ってくれた雑誌『PAPERSKY』編集長のルーカス B .B .さん。松島の風景は、移動する速さが変わるたび、新しい表情を見せてくれました。
 

風を切って走る。
潮の香りが鼻をくすぐる。

レンタサイクルは野蒜(のびる)駅にある奥松島観光物産交流センターで。1日(9時~16時)¥3000。/宮城県東松島市野蒜ヶ丘1-15-1 ☎0225-88-2611

その日は見事なまでの晴天だった。まずは奥松島にある野蒜駅で自転車をレンタル。用意されたマウンテンバイクに飛び乗ったルーカスさんは、まるで水を得た魚のように、その場をくるくると走ってみせた。「うん、乗りやすい自転車だね」

野蒜駅は奥松島エリアの高台にある。ゆるやかな坂道を下って、湾で一番大きい島、宮戸島を目指すことにした。片道10キロ程のサイクリング。頬を切る風に、はっきりと潮の香りが混ざっている。まだ見えないが、海は近い。宮戸島に向かって、気ままに自転車を走らせる。松島の旅は、そんなふうにゆるりと始まった。

日本に暮らして25年になるルーカスさんは、日本の地方の魅力を発掘し、その土地を自転車で旅する「ツール・ド・ニッポン」という企画を主催している。2011年に始まり、すでに25回開催。前回は北海道の十勝を2日間かけて巡ったという。

「自転車は旅をするのにちょうどいいスピード。進んだり、止まったり、気の向くままに動けるし、車だと一瞬で通り過ぎてしまう風景も、直に肌で感じることができるよね」

自転車で走り始めた直後、猛スピードで空を飛ぶ航空自衛隊のアクロバットチーム、ブルーインパルスが姿を現した。松島基地が彼らの拠点で、練習風景が見られるのも、このエリアを訪れる楽しみ。

だから今回は、10年以上前に来たことがある松島を、もう一度、体を使って感じてみたかったという。

「前回は、どこか近場の港から船に乗って移動していたんだ。それで、松島の近くを通るからと少しだけ立ち寄った。東日本大震災が起きたのはその後のこと。街は変わった部分もあると思うけど、今の松島でたくさんの美しい風景を見つけたいな」

途中で出会った一本松。奥松島一帯は東日本大震災での津波被害が大きく、現在の野蒜駅は元々の場所から海抜22mの高台に新設したもの。駅舎には復興の過程を伝える展示室もあり、それを見た上で走れたことも良かった。