いま一度する「米中貿易戦争」の正しい読み方~協議再延期を受けて

任期のあるトランプと任期のない習近平
唐鎌 大輔 プロフィール

不透明感が色濃い状況は全く変わらず

話を米中協議に戻す。注目の「3月1日」が延期されたことで金融市場には安堵が拡がっているが、米中協議が金融市場の不安材料でなくなったわけでは全くない。

今後、仮に米国(USTR)の求める覚書が打ち出されたとしても、例えば①遵守を巡る不安②遵守したとしても効果を巡る不安が市場心理に圧し掛かることが目に見えている。

例えば①。覚書という形式に至らなかったのはそれが備える法的拘束力に関し米中間で合意が取れなかった、言い換えれば「技術移転の強要など、構造改革の遵守について厳格性を強いられるのを中国が嫌った」という見方が成り立つ。

しかし、仮に覚書の法的拘束力を認めた上で中国がこれを受け入れた場合でも不安がある。その場合、米国側はPDCAサイクルに基づいて着実にその進捗をフォローするはずであるが、これが円滑に進む保証は全くない。かつて欧州債務危機においてギリシャは国際金融支援で求められた四半期ごとのコンディショナリティを遵守せず、その都度、市場不安が定例的に高まるという局面があった。

この先、中国が覚書を受け入れても遵守を巡って市場が不安を抱くという展開が容易に想像される。

 

次に②だ。理論的には中国が覚書を受け入れ、そして遵守しても米国の経常赤字ないし貿易赤字が消える可能性は低い。貯蓄・投資(IS)バランス上、投資過剰(貯蓄不足)という米国経済の構造が変わらない限り、二国間交渉で中国からの輸入を制限しても、その分は他国からの輸入増加に振り変わるだけである。

例えば、度重なる貿易摩擦を経て輸出自主規制や輸入拡大ひいては通貨高を甘受してきた日本の対米貿易黒字がなくなっただろうか。その間に米国の経常収支や貿易収支の赤字体質は改善されただろうか。全く変わっていない。

たとえ日本からの輸入を制限しても、ISバランスが変わらなければ、米国は日本以外からの輸入を膨らませるだけだ(事実としては日本の対米黒字が減る過程で中国のそれが増えた)。

現状、米国のISバランスを見ると政府部門の巨大な貯蓄不足が海外部門の巨大な貯蓄過剰(≒経常赤字)と裏表である(下記図)。

拡張財政に邁進してきたトランプ政権はこの理論的かつ基本的な事実を踏まえ、必死に時間と政治資源を費やしても、最終的に欲しい結果(米国の貿易赤字解消)が得られる可能性が低いことを認識する必要がある。

今後もトランプ政権は攻撃的な二国間交渉を通じて日本や中国やEUの対米輸入の強制的な拡大を強いるのだろうが、自国の(政府部門も含めた)過剰な消費・投資体質を変えない限り、徒労に終わる可能性が高い。

このことをどこかのタイミングでトランプ大統領に分かって貰わない限り、最悪、2024年までこの不毛な通商協議を見せつけられることになる。