いま一度する「米中貿易戦争」の正しい読み方~協議再延期を受けて

任期のあるトランプと任期のない習近平
唐鎌 大輔 プロフィール

任期のある米国大統領 vs. 任期のない中国国家主席

今回、米中両政府は3回(①1月30~31日、②2月14~15日、③2月21~24日)の閣僚級会合を開催し、第3回目の最終日である2月24日にトランプ大統領から再延期が表明された。

だが、このタイミングで公表されると囁かれていた覚書やこれに付随する共同声明などが出たわけではない。この点、なかなか合意をまとめられない対中強硬派の筆頭・ライトハイザーUSTR代表に対しトランプ大統領が不満を募らせているとの報道が出ている。

具体的には、協議の成果が覚書という形式になるとのライトハイザー代表の説明に、トランプ大統領は「覚書は好きではない。何も意味しないからだ」と批判、これにライトハイザー代表が覚書の法的拘束力を強弁し大統領の逆鱗に触れたという話が報じられている。

政権内の人間関係の実際のところは知りようがない。だが、こうした動きの背景にはやはり焦りもあると推測され、「任期のない中国国家主席」が「任期のある米国大統領」を徐々に押し込み始めているようにも見える。

上述したように、トランプ大統領は2020年の中間選挙を念頭に『中国の不公正貿易に立ち向かう大統領』を演じつつ、支持者にアピールを続けたいのであろうが、「覚書程度ではアピールになりえない」、「中間選挙まで時間がない」という焦りが保護主義派の盟友とも言えるライトハイザー代表にも辛く当たらざるを得ない状況に繋がっているのではないか。

 

対日為替条項は不可避か

なお、やや余談にはなるが、対中協議が一旦棚上げされると、その浮いた時間が対EUや対日本の通商協議に費やされる可能性が出てくる。

〔photo〕gettyimages

トランプ大統領は輸入自動車関税の実施可否について5月18日までに決断する必要があるが、EUと日本については通商協議中につき、そのような行動が取れないという自己制約を設けている。

少なくとも5月下旬に日米首脳会談を控える日本との通商協議はそれまでに形にしておきたいという思いがあるのだとすれば、次にトランプ政権が動くのは日米物品貿易協定(TAG)交渉になるだろうか。

今回の対中協議については最終的に書面化された情報がないため今後の米国の姿勢を推し量る上での含意を得にくいが、報道等から得られる情報を整理する限り、少なくとも①対米輸入拡大に伴う貿易赤字の削減②競争的な通貨切り下げ禁止(いわゆる為替条項の導入)という米国にとって好ましい2点は妥結事項として盛り込まれていたものと推測される(だからこそ制裁執行ではなく再延期になった)。

翻って、こうした論点はEUや日本との交渉でも登場する可能性が高いと思われる。

とりわけ②については「対中貿易交渉の一環として、人民元相場の安定を維持するよう求めた」という報道が漏れ伝えられており、新・北米自由貿易協定(USMCA、新NAFTA)でも導入された経緯がある。やはり、日本に対しても意欲的にその導入を求めてくる可能性は非常に高いであろう(ムニューシン米財務長官はその旨を発言している)。

真っ当に考えれば通商政策と通貨政策は別管轄で行われるべきだが、そのあたりの常識が一切通用しそうにないのが悩ましいところである。