体長18m! 夫婦が14年間守り続けた「インディーズ恐竜」の物語

「龍骨」を求める民との戦いの末に…
安田 峰俊 プロフィール

かつて30年間にわたり付近の炭鉱で働いた経験がある劉さんは、この物体が普通の岩石ではなく古生物の骨であろうと見当を付け、妻の呉先琼さんと相談。地元当局の文化財担当部門に報告したところ、調査の結果はやはり恐竜の化石であった。

しかし、これは劉さん夫婦がその後14年間にわたって続けていく「化石防衛生活」の始まりでしかなかった。

なぜなら、田舎の村を騒がせた大ニュースを聞きつけて野次馬がどんどん集まってきた……まではよかったのだが、彼らが地表に露出した化石をどんどん削りはじめたからだ。

世紀の大発見がリウマチ治療薬にされてしまう!

もともと、伝統的な中国社会では土中から出てきた古生物の骨(龍骨、lóng gŭ)を生薬にする習慣があった。なかでも宝峰龍については、どういうわけなのかリウマチやがんの治療に効果があるという怪しげな噂がささやかれたのである。

(余談ながら、長らく伝説上の存在であった古代の殷王朝の実在を証明した甲骨文字の発見も、1899年に中国人学者が「龍骨」をマラリア治療のための生薬の素材として買った際に、骨に漢字状の文字が刻まれていることに気づいたのがきっかけだった)

甲骨文字甲骨文字 Photo by Getty Images

宝峰龍の受難は続いた。ときには工具を持った男たち3人が裏山にやってきて、夫婦の静止も聞かず骨を掘り出そうとしたので、警察を呼んで追っ払ったこともあった。

対して「これは国家の宝だから専門家以外に発掘させてはならん」と考えた劉さんは、妻の呉さんと昼間は交代で化石を見張り、その合間に農作業をする生活を送る。

翌1999年4月、数人の古生物学者がやってきて試掘をおこない、極めて保存状態が良好な竜脚形類であることを確認したが、まだ中国が貧しかった時期でもあり、資金難から足の骨をすこし掘り出しただけで発掘は中断してしまう。

やがて盗掘者がめったにやって来なくなってからも、暑い日は蚊取り線香を焚き、寒い日は火鉢で暖を取りながら夫婦は化石を守り続けた。

発見者の農民、志なかばで…

さっぱり発掘にやって来ない専門家たちを待ちながら、未知の巨大恐竜を守っていた劉さん夫婦にさらなる悲劇が襲った。