写真提供:中井 亮佑

とっても小さいやつらを追って

謎だらけの「辺境微生物」の世界

とんでもなく小さくて、とんでもなくたくさんいる

2013年12月、世界で最も成功したメタルバンドと称される「メタリカ」は、地球の最果てでライブを決行した。ライブ会場はなんと南極半島にある島だ。

このライブの4ヵ月前、サマーソニック(音楽フェスティバルのひとつで、通称サマソニ)大阪の大トリで演奏する彼らを目の前で見た。その力強い音楽は見るものを圧倒していた。演奏後に投げたギターピックのひとつは、ひらひらと宙を舞いながら僕の目の前に飛んできたので、全力で飛び上がってそれを手につかんだ。このときの興奮は、音楽とともに今でもはっきりと覚えている。

【写真】メタリカメタリカ P. by gettyimages

そんな彼らのライブが南極で行われたのには驚きだ。観客は南極にいるペンギンやアザラシ……ではなく、研究者120人と、選ばれたファンたち*1。極寒の地での“熱い”ライブは、どれほどの熱気に包まれたのだろうか(当時のライブ映像はこちらから*2)。演奏のあと、メタリカは七大陸すべてでライブをした史上初のバンドとしてギネス世界記録に載った。

伝説のライブから1年後の2014年12月、僕は“あるもの”を追いかけて南極大陸にやってきた。それは、メタリカではなく、とっても小さいやつらだ。そう、微生物と呼ばれる小さな生物たちである。

微生物は目に見えないほどのサイズで、今この画面に出ている「j」(アルファベットのジェイの小文字)の上にある点よりもはるかに小さい。そんな微生物の仲間には細菌(バクテリア)、小さな藻類、カビや酵母などさまざまな生物たちが含まれる。

たとえば、僕たちのお腹にいる大腸菌も細菌の仲間だ。大腸菌の大きさは長さ0.001~0.002ミリメートルだ。こんなに小さいから、目に見えないのは当然である。しかし、微生物はとんでもない数であちこちに暮らしている。ある研究チームの計算によれば、地球にいる細菌をぜんぶ数えると、およそ1000000000000000000000000000000個(10の30乗個)にもなるという*3。あまりに大きすぎる数であるため、そう聞いても想像するのがむずかしい。

とにかく謎で、衝撃的でさえある

自己紹介が遅れたが、僕は、北極や南極といった過酷な環境、いわゆる「辺境」と言われるような場所で生きる微生物、なかでも細菌を日々研究している。ここではそれらを「辺境微生物」と呼ぶことにしよう。

身近な微生物ではなく、なぜわざわざ辺境微生物を研究しているのか、とよく聞かれる。その質問はもっともだ。昔を振り返ると……辺境微生物の世界にのめり込んだきっかけは深海生物だ。

深海には僕たちの想像もつかないような生物が生息している。インターネットで「深海生物」と検索してみよう。身近で目にする生物とは見た目が異なる奇想天外なやつらがぞくぞくと出てくるはずだ。海の奥底という真っ暗闇の中で、深海生物たちはどのように生きているのか。そんな“わくわく”する気持ちが、僕を研究の道へと引き込んでいった。

大学に進んで微生物を学んだ僕は、さらに興奮した。微生物の仲間には、100℃を超えても増殖できるものや、地下の奥深くで酸素がなくても活動できるものなど、「すごいやつら」がたくさんいる。僕たちは当然、そんな過酷なところでは生きていられない。謎だ、とにかく謎だ。

さらに不思議なことがある。微生物の性質をくわしく知りたいときは、実験室の中で飼育(培養)してあれこれ調べる。たとえば、どんな餌を好むのか、また、何℃くらいでよく増殖するか……といったようにだ。だがしかし、顕微鏡でのぞくと見える微生物の中で、培養できるのはせいぜい1%程度という衝撃の事実。

ほとんどの微生物はどうしてか培養がむずかしく、正体不明のものばかり……その秘密を解き明かすべく、多くの微生物の狩人(ハンター)が研究に人生をささげてきたことを思い知った。

微生物世界は巨大だ。小さいやつらを調べることが、地球生物がいかに多彩、そして多才かを明らかにすることにつながるに違いない。そして、身の回りの環境とは大きくかけはなれた辺境には、まだ見ぬ微生物が大量にひそんでいるのではないか。常識外れの辺境微生物の“生き様”が、生物に対する固定観念をくつがえしていくはずだ。

そんな思い(思い込み?)と、また多くの微生物ハンターとの出会いが重なり、僕は辺境微生物を研究するに至っている。