独創的で自由なアートは、どのような環境で生まれるのだろう? そんな疑問を抱えて鹿児島へ向かったのは、ファッションデザイナーのスズキタカユキさん。世界からも注目される「しょうぶ学園」で見たエネルギー溢れる無垢な芸術表現は、創作の原点を見つめ直すきっかけをくれました。

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ああああああああ

ステージで照らし出された、
“ヘタウマ” という個性。

各工房を巡った後、「これからバンドの練習なんで、ぜひ見てってください」という福森伸さんの誘いで「otto&orabu」の生演奏を見学させてもらうことに。otto(おっと)とは、民族楽器を中心として2001年に結成された施設利用者のパーカッショングループ。orabu (おらぶ=鹿児島弁で「叫ぶ」の意)とは、スタッフによるコーラス隊。

指揮者である福森さん含め、みんな音楽の基礎を学んでいないアウトサイダーということもあって、楽譜に音符は一切なく、音の強弱を表す波線や、キーワードとなる言葉などがちりばめられた “構成用紙” をもとに曲が成り立っている。
 

では、どうやって連携のとり方を伝えるのかというと、「オレンジ、ピンク、黒になって朝に少しずつなっていくよ!」と誰にでも分かる色などの共通言語で福森さんが全員のイメージを舵取りしていたのだ。

それだけでも驚きだが、いざ演奏が始まると、さらに衝撃の連続だった。ズレていようがお構いなしにジャンベを叩きまくる人がいるし、「そば屋 凡太」で働く利用者の小松尾彰さんは、切れたバイオリンの弦を叩くようにして弾き、出番のないときはクネクネと踊ってみせる。
 

だが、無秩序でバラバラかと思いきや、とてつもなく一体感があり、不協和音がときどきミラクルなハーモニーを奏でたりするから不思議だ。スタッフも腹の底から魂を込めておらぶ。すると、想像の遥か上を飛び越えてくるほどの破壊力が音に宿る。

終始興奮しっぱなしで、曲が終わった瞬間、スズキさんも思わずスタンディングオベーション。同じ演奏を聴くことは二度とできない。夏の終わりの打ち上げ花火のように刹那的であり、即興が生み出した奇跡がそこにあった。
 

パフォーマンスが終わると、福森さんは「みんな “ヘタウマ” でしょ?」と笑った。その、おちょくりとも思える表現にこそ「しょうぶ学園」の包容力が詰まっているような気がした。“ヘタウマ” とは味でありオリジナリティだ。優劣のベクトルはなく、個性が素敵だと全肯定している。踊っている小松尾さんを見て、施設長は「今日のダンスいいね!」と褒めた。それぞれの自然体が一番魅力的であるということを “ヘタウマ” というフレーズに込めていたのだろう。

同じように、利用者の個性を尊重した環境作りは各工房にも行き届いていた。「和紙・造形」には手漉き道具と原料のコウゾまであり、「陶芸」には窯もある。「木工」にはありとあらゆる工具が揃い、ロクロや漆の設備が整っていて、「布」には膨大な数の糸と生地がストックされている。利用者がどの工房を選ぶかは体験期間を経て本人の意思に委ねられ、何を作るかも制限がない。「私たちは、彼らが表現したいと思った瞬間に備えて“用意”するだけです」と壽浦さん。

それは道具だけの話でなく、アウトプットの場所も同様だ。「Otafuku」の2階の壁には濱田さんの2mを超える大きなアートが展示され、翁長さんのドットの図柄は交流スペース「オムニハウス」の外壁に採用されている。「木工」の工房で作られた箸や漆の器は「そば屋 凡太」などで使用され、「nui project」の作品は日本のみならず海を渡って世界中のギャラリーで展示される。

「otto&orabu」へのライブオファーは後を絶たない。福祉施設でのものづくりは日の目を見ないままに終わってしまうことが多いが、ここではスポットライトが当たるステージがちゃんと用意されているのだ。
 

そして、それがどんなに小さな作品であっても、本人が手放すのを望まない場合を除き、スタッフは “コラボレーション” の一環として、雑貨やグッズへとアレンジして園内で展示、販売してきた。「手を加えるサジ加減が素晴らしいですね」とスズキさん。一方的に押し付けるわけでもなく、放任というわけでもない。つかず離れず寄り添い、道に迷ったらそっと手を差し伸べる。その絶妙な距離感こそが、心地いい創作のサイクルを生み出しているのだろう。

しょうぶ学園
鹿児島県鹿児島市吉町町5066
☎099-243-6639

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PROFILE

スズキタカユキ Takayuki Suzuki
1975年愛知県生まれ。東京造形大学在学中に、独学で服作りを始め、演劇や舞台の衣装を手掛けるように。2002年には自身の名を冠した〈suzuki takayuki〉をスタート。現在は北海道根室市と東京の2拠点生活をしている。趣味は温泉巡り。

 
●情報は、2018年12月現在のものです。
Photo:Norio Kidera Text:Kyosuke Nitta