独創的で自由なアートは、どのような環境で生まれるのだろう? そんな疑問を抱えて鹿児島へ向かったのは、ファッションデザイナーのスズキタカユキさん。世界からも注目される「しょうぶ学園」で見たエネルギー溢れる無垢な芸術表現は、創作の原点を見つめ直すきっかけをくれました。

一途な創作のエネルギーは、
予想を飛び越える瞬間がある。

「僕もアウトサイダーなんですよ」

鹿児島市内から北東に車で約30分の郊外にある障がい者支援施設「しょうぶ学園」へと向かう途中、なぜこの場所を旅の目的地に選んだかという質問に対してスズキさんはそう答えた。

自身のブランド〈suzuki takayuki〉をスタートしてから今年で16年。美しいドレープを魅せる立体的なパターニングや繊細なステッチワークにより描き出される凛とした服にファンが多く、今では国内外で高く評価されているが、彼のルーツを遡ると、東京造形大学在学中にスタートした衣装づくりは完全なる独学。

専門学校などで服飾の基礎を学んではいない。だから、デッサンなどの美術教育を受けていない “外部” の人による芸術表現を指すアウトサイダーアートに惹かれたというのも納得がいった。

しかも、スズキさんのクリエイションに一貫している3本柱、“普遍性、即興、自然体” は、アート&クラフトの力で福祉の価値観を変えた「しょうぶ学園」の活動と重なる部分が多い。トレンドに左右されることなく、着る人の自然体を引き出す服作りをブレずに追求し、また、2人の音楽家と照明作家、そしてスズキさんの4名で構成される「仕立て屋のサーカス」では、ライブ公演中にミュージシャンたちに即興で布を纏わせていくというパフォーマンスを行っている。普遍的な美しさと突発的な衝動表現を、彼はライフワークのように模索してきた。
 

「ものづくりに携わる同じ人間として、どのような環境で、どんな意識で創作されているのか見たいですね。それにしても今日は暑いなぁ……」

気温は28度。訪れた10月初旬は台風一過でカラッと晴れ渡り、Tシャツ一枚でも十分な清々しさ。園内に入ると、桜並木に軒を連ねる「そば屋 凡太」やベーカリー「ポンピ堂」、「パスタ&カフェ Otafuku」で食事や買い物をする一般客の姿や、庭園で気持ちよさそうに日向ぼっこしているロバと羊の微笑ましい光景が目に飛び込んできた。緑が生き生きと茂り、「施設であるということを忘れてしまうぐらい風通しがいいですね」とスズキさんが言うように、心地いいメロウな時間が流れていた。
 

まったりムードも束の間、デザイン室に勤務する壽浦直子さんの案内で4つの工房を巡ることに。その前に、まず利用者の作品が展示される「Sギャラリー」へと向かうと、足を踏み入れた瞬間、パンチのあるアートを前に「おぉ」と驚きの声を漏らすスズキさん。呆然と立ち尽くしたまま「言語化できないですね」とポツリ。
 

数え切れないほどの色の刺繍が施された神村八千代さんの作品も、中田麻美さんによる3本足が特徴的な小さな陶製オブジェも、どんな意図があるのか見当がつかなかった。中でも「これは本当に力強い」とスズキさんを釘付けにしたのが、大きいパネルに描かれたコントラストの強いグラフィックだ。
 

「『和紙・造形』のアトリエにこの絵を描いた濱田幹雄さんがいるので行きましょう」という壽浦さんの提案に従うと、着いた途端、「うおー!」と思わず唸ってしまうほどの強烈な世界が待ち受けていた。床も壁面も扉も全部が縦横無尽な四角と線で埋め尽くされていて、濱田ワールド全開! 聞けば、このアブストラクトな作風は濱田さんが施設の利用を開始した1976年から40年以上かけて培ってきたものだという。現在62歳。継続の原動力とは?尋ねると、「彼はアートがどういうものなのか理解していません。描きたいという無垢な初期衝動に忠実なだけなんです」と合流した施設長の福森伸さんがそう代弁した。スタッフは皆、濱田さんのことを「巨匠」と呼ぶ。そこには純粋なリスペクトが感じられた。

「マルを何十年も描く人がいます。福祉支援施設だと、マルの次は三角、できたら四角を、と成長を促しますよね。親の立場になると、社会的自立を夢見るのが普通です。ただマルだけを描き続ける人に三角を強要することが、本人の幸せに直結するかというとそうではない。マルしか描けない、ではなく、マルの天才!と尊敬してくれる人が周りにいる方が、“巨匠” もそうですが、みんな口には出さなくてもいい顔するんですよ」
 

福森さんのその言葉にスズキさんは黙って数回深く頷いた。一朝一夕ではなく、創立から45年かけて試行錯誤しながら築き上げてきた福祉の在り方は胸を強く打つものがある。その言葉通り、手漉き和紙に墨一色の精緻なドット柄を表現する翁長ノブ子さんの表情は幸せそうだったし、次に訪れた「木工」の工房でも、女性の顔の彫刻作品を作る米山宣秀さんからは、会話せずとも楽しいという心情が伝わってきた。
 

その後に向かった「陶芸」の工房でも、陶製の車を黙々と作り続ける南裕貴さんの真っ直ぐな姿勢にはカッコよさを感じたし、世界中から注目を集める「nui project」という手縫いプロジェクトの作品群も、刺繍に息づく躍動感や生命力が、無言のままに作り手の幸福度を物語っていた。ここには策略や損得勘定がまったくない。純粋な創作のエネルギーだけが溢れている。
 

「健常者、障がい者というフィルターで見てしまいがちですが、邪念のない方々の発想力は本当にすごい。ピュアな思いの強さを目の当たりにしました」と、スズキさんは4ヵ月以上かけて縫われた高田幸恵さんの刺繍シャツを大事そうに見ていた。

しょうぶ学園
鹿児島県鹿児島市吉町町5066
☎099-243-6639

ああああああああ

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PROFILE

スズキタカユキ Takayuki Suzuki
1975年愛知県生まれ。東京造形大学在学中に、独学で服作りを始め、演劇や舞台の衣装を手掛けるように。2002年には自身の名を冠した〈suzuki takayuki〉をスタート。現在は北海道根室市と東京の2拠点生活をしている。趣味は温泉巡り。

 
●情報は、2018年12月現在のものです。
Photo:Norio Kidera Text:Kyosuke Nitta