「官邸人事」によって混乱に陥った農水省の知られざる悲劇

霞が関ディープスロート
現代ビジネス編集部 プロフィール

大臣は「節操のない人」

一方、農林水産省トップの吉川貴盛大臣は、就任5ヵ月が経過したが存在感を発揮できていない。生粋の農水族議員でないこともあり、政策面でのリーダーシップをとることが難しい上に、兼務する自民党北海道連会長としての足元も揺らいでいる。

吉川氏は北海道札幌市の出身で、北海道議を経て、1996年の衆院選で初当選し、6期目を迎える。

農林水産大臣は農林関係に強い、いわゆる農林族が就任するのが普通だが、吉川氏は経済産業副大臣を務めるなど根っからの農林族ではない。

自民党の農林族議員は「環太平洋経済協力協定(TPP)の議論が出た時に農水副大臣に就任し、自民党の対策本部長として話をまとめるように言われたのが彼の農林族としてのスタートです。元々自民が与党に返り咲いた2012年12月の衆院選では、日本のTPP参加に反対の立場を取っていましたから、180度態度が変わったことに、地元の関係者は『節操のない人』と反感を示していました」と話す。

吉川氏は二階派で、片山さつき地方創生相や桜田義孝五輪相とともに、いわゆる「入閣待機組」だった。ある農相経験者は「吉川氏の印象は、とことん安全運転な人。目立つことをしない代わりに、上の言うことには忠実」と分析する。

また全国紙記者は「農水省関連のイベントがあると、挨拶でいつも『二階先生のおかげで』と話してオヤジにアピールをするのがクセになっていますね。マスコミに取り上げられるわけでもないのに、正直痛々しい」とあきれ顔だ。

一方、吉川氏は菅義偉官房長官と近い。農水副大臣だった2013年には、菅氏の要請を受けて農協改革に着手した。党のプロジェクトチーム座長として、コメの生産調整(減反)見直しや農地中間管理機構の創設など政府の改革をけん引。菅氏が進めた航空行政の規制改革についても北海道連会長として推進するなど、政権中枢に食い込んでいった。

 

進む農林族の「弱体化」

では、肝心の大臣としての仕事ぶりはどうだろうか? 専門紙記者は「とにかく官僚の作った答弁書のペーパーを読み上げるだけ。自分の考えなど全くなく、徹頭徹尾丸投げですね。まるで『原稿読み上げマシーン』みたいだと言われています」と話す。

北海道の自民党関係者も「吉川氏は地元が札幌市内の都市部で、農業地帯ではありません。農業に思い入れもなく、たまたま大臣になれたからルーティンでこなしているというのが本音でしょう」と冷ややかだ。

日本の農業界はアメリカとの日米新交渉を控えるが、交渉のトップは茂木敏充経済再生担当相が務めており、吉川氏に実権はない。農水相は農業団体などとの調整役を務めるが、官邸の「自分たちと距離の近い吉川氏を就けた方がよいとの判断」(官邸筋)が働いた。

日米新交渉をめぐっては、昨年10月の自民党幹部人事が「自動車と農業のバーター」がテーマになることを見越し、農林族の弱体化を狙ったものとの憶測も飛んだ。

農林族の自民議員は「重鎮の野村哲郎氏は農林部会長にとどまりましたが、森山裕氏は国対委員長、塩谷立氏は党の財務委員長、江藤拓氏は首相補佐官と、軒並み責任の重い役割を負わされています。本人たちは『問題無い』というでしょうが、農業界からの声が反映しにくいように、都合よく配置されたと見られても仕方ありません」と指摘する。