「官邸人事」によって混乱に陥った農水省の知られざる悲劇

霞が関ディープスロート
現代ビジネス編集部 プロフィール

「それが、会見を開いたまではよかったのですが、肝心なことになると『知らない』『覚えてない』『記憶にない』のオンパレードで、農水省内でも『あの答弁はない』との反応がありました。

財務省次官と女性記者の問題があったばかりの状況なのに、会見に同席した秘書課長も『昔のことで、女性が相談に来た記録は残ってないし、対応にも問題はなかった』の一点張り。霞ヶ関というところが男社会なのが浮き彫りになるだけの対応でしたね」

また、別の専門紙記者は「実は、末松氏のこの問題は省内では知られていた話で、官邸も農林族の自民議員もみんな知っていました。そもそもこのパワハラ問題が起きた時の秘書課長は奥原氏でしたから、後任を指名する時に知らなかったはずがありません。末松氏の『アキレス腱』を知った上であえて次官に就任させたわけで、官邸の覚えがよほどよかったのでしょう。

末松氏が次官に就任した時に、次官候補だった松島浩道農林水産審議官が同じポストにとどまったのは、末松氏がこの問題で退任することになった場合に備え、控えを残すためだったとも言われています」と分析する。

報道にショックをうけたのか、末松氏は直後の記者クラブとのオフレコ懇談会を「諸般の事情により」欠席している。先の専門誌記者によると、マスコミ対応も饒舌だった報道以前とは違い、避けるようになったという。

 

くすぶる「経産省との統合論」

末松氏の次官就任の際に、霞が関でまことしやかにささやかれたのが「農水省」と「経済産業省」の統合論だ。

農水省は2001年の省庁再編の時も名称変更されず、統合の波を乗り切った。「食の安全保障」という金科玉条があるためといわれるが、官邸サイドからすれば規制にがんじがらめにされた農水省を改革したい思惑は常にある。安倍政権で力を持つ経産省が人を送り込み、改革を進めた後で統合にもっていこうとするのも無理はない。

実際、経産省出身の斎藤健前農相時代には、斎藤氏の1年先輩にあたる嶋田隆経産省次官が、宗像直子特許庁長官を農水次官もしくは次官級の農水審議官に据える算段を進めていた。

結果としてこの人事案は実現しなかったが、奥原氏と、「突破力がある」と霞ヶ関で評価される宗像氏のコンビは、規制緩和を進めたい勢力にとってはうってつけの人選だったといえる。

先の専門誌記者は「宗像氏は安倍総理の秘書官もやってたから、加計学園での柳瀬唯夫氏のことが取りざたされた時期だったために実現しなかった。生え抜きでない宗像氏は、次官は無理でも農水審議官ならあり得たはず。末松氏は経産省に出向していたこともある上、農政改革を進める奥原氏に指名された手前、言うことを聞かざるを得ない。こういう統合論は末松氏以降もくすぶり続ける」と予想する。