「官邸人事」によって混乱に陥った農水省の知られざる悲劇

霞が関ディープスロート
現代ビジネス編集部 プロフィール

「院政」の実態

異例の「長期政権」の夢は叶えられなかった奥原氏だが、顧問としては漁業改革法案の策定に隠然たる影響力を持ち続けた。

農水省OBは「農水省の3階には顧問室がありますが、そこに現役の幹部が足を運び、色々とお伺いを立てています。次官室や秘書課には奥原氏の腹心や息のかかった部下がまだ大勢おり、不用意な発言や動きがあればすぐに奥原氏に届くようになっていています。

彼が次官に就任してから、省内の雰囲気がかつてよりも重苦しくなりました。次官用資料も奥原氏のために相変わらず用意されていたという話も出ていますから、いつまで顔色をうかがっているんだ、と情けない限りです」と嘆く。

農協改革に次ぐ漁業改革を「やり遂げた」奥原氏は、部下への論功行賞として、腹心の大沢経営局長を国際交渉などを手がける農林水産審議官に、山口水産庁次長を「天領」である経営局長にする人事を固めている。

農水省内では、奥原氏が顧問を退いた後の「次のポスト」についても関心が高まっている。政府の政策に助言する内閣官房参与に就任すれば、官邸と組んで一層の農林水産改革に切り込んでくることが予想されるためだ。農水省関係者が話す。

「省内の秩序をぶっ壊してきた奥原氏ですから、OBによる天下り先の調整は望めないでしょう。エースと呼ばれた今城氏が、次官に就任できずに退官に追い込まれたため、OBたちから『かわいそうだ』という声が上がり、次官の天下りポストである東京海上日動顧問に就いたのとは対照的です。ただ奥原氏は昔ながらのムラの論理に縛られないだけに、怖さは残ります」

 

後任の次官も「異例づくし」

では、奥原氏の後任次官である、末松広行氏とは何者か。

末松氏は1983年入省。小泉純一郎政権で2002年から首相官邸に出向し、首相を補佐する内閣参事官を約4年半務めた。その後は農村振興局長などを歴任し、2016年6月からは経産省との幹部人事交流で同省産業技術環境局長に就任していた。

農水省では林野庁や水産庁の長官が次官に昇格するケースも多いが、出向先の他省庁から直接次官に就任するのは異例の人事と言える。

末松氏の次官就任を後押ししたのは、小泉政権での大物秘書官として有名な飯島勲内閣官房参与とされる。末松氏の就任の背景について、農林族の自民議員はこう分析した。

「奥原氏は自身の続投を官邸に訴えて拒否された後に、腹心の大沢氏を推して院政を本格的に敷こうとしたが、これもだめだった。それなら、というわけで、変な色のついていない末松氏を推したというわけです。奥原氏自身は特に末松氏に思い入れはありませんが、こいつなら御せる、と考えたんでしょうね」と分析する。

末松氏といえば昨年12月、写真週刊誌「フライデー」で、元部下の女性に対するセクハラ・パワハラについて報道されたのが記憶に新しい。

記事によると末松氏は、総合食料局食品産業企画課食品環境対策室長を務めていたときの女性部下に対し、内閣参事官に出向してから1年以上にわたってセクハラ・パワハラを繰り返したという。大量のメールを送ったり、電話をしたりして食事に誘い、拒否されると激怒した。

女性は精神的に追い込まれ、人事担当者に相談したが、まともな対応をされずあしらわれたという。自宅の官舎前で取材を受けた際に末松氏は「(女性本人が)傷ついたと言っているなら次官を辞める」と約80分にわたり潔白を訴えたとも書かれている。

全国紙政治部記者によると、この記事が掲載された「フライデー」が発売される前日の昨年12月6日、早刷りが官邸や農水省、報道各社などの関係者に出回ったため、末松氏は緊急で釈明会見を開いたという。