多発する児童虐待事件…「親・保護者=善人」の思い込みはリスクだ

子どもが「助けて」といえる社会に
森山 誉恵 プロフィール

リスクの大きさに対して支援機関はどこも受け皿不足

一方で目黒区の船戸結愛ちゃんと、千葉県野田市の栗原心愛ちゃんの事件でも明るみになったように、虐待の発見や保護などを担う児童相談所をはじめ、そういったリスク対策を十分に行うには子どもの教育や支援に携わる大人の余裕があまりにもありません。

かつて家族の形も大きく、学校にもゆとりがあり、地域や親せきづきあいもあった時とは違って、家族の単位も小さくなり、学校にもゆとりが減り、地域・親せきづきあいもほとんどなくなった今、その負担は、少ない大人にのしかかっており、それが崩壊すると、NPOや行政などの子どもの支援機関にすべて寄せられている状況です。

東京の児童相談所は1人のケースワーカーが80~100件を超えるときもあります。

企業などで働いている方にとって、たとえばコンサルティングをしているケースが80~100件もあると、ひとつひとつ丁寧にできないことがよくわかるかと思います。

ましてや、命にかかわる案件もありえます。継続的に家庭訪問をしたり、小さなリスクや変化も汲み取るにはあまりにも多い案件数です。

私たちのもとにも子どもから年間200件を超える相談が寄せられています。一件一件リスク対策をするには、対応する職員の選抜、研修、マネジメント、会議などを丁寧にしなくてはいけません。

しかし、そのための予算や、人は十分になく、時には来たものを丁寧に対応するために、相談窓口を閉じざるを得ない時もあります。

そのため、私たち以外にもたくさんある子どもの支援機関に適切につながるために、子どもたちが自分に最も合った支援機関を検索し、サイト内で相談までできる「Mex(ミークス)」というプラットフォームを作りました。

Mex(ミークス)

子どもたちのアクセス数や相談数は伸び続けており、初年度(2016年度)は東京版として開設し1年間で約5万人、2017年度は全国版にリニューアルして1年間で約14万人、2018年度は1月末時点ですでに20万人と毎年利用者数が大きく増え続けています。

受け皿となる支援機関がパンクしないために、掲載している支援機関を増やしたり、いろんな工夫をしていますが、時には子どもへの周知を制限しなくてはいけないのではという葛藤にかられることすらあります。

少子高齢化時代にも関わらず、子どもの虐待の発見数は毎年増えており、いじめや、不登校、子どもの自殺率も増加し続けています。

そして少子高齢化の中で、社会保障の約8割は年金、医療、介護でなくなり、残った2割で、生活保護や子育て世帯の支援、若者支援などを分かち合っている状況です。

子どもの支援団体の多くは、行政からの補助が得られず、虐待や貧困が問題な中で親や子どもから費用をもらうことはできないので、ボランティアと寄付で成り立っています。年間200〜300万円で運営しているところも多く、1人分の人件費にもならないことがわかります。

そんな団体が、家庭にも学校にも地域にも居場所がない子どもたちからの相談をすべて受け止めています。私たちも10人ほどの職員で運営していますが、それでは全く足りない状況で活動しています。

その解決を先送りすればするほど、問題は複雑化し、解決の糸口はより見えなくなってしまうほど、重くなっていきます。

誰かひとりが取り組めば解決される状況でなくなってきていることを、結愛ちゃんと、心愛ちゃんが私たちに教えてくれています。二人が命を懸けて教えてくれたことを、社会全体として受け止めなくてはいけません。

 

親だけを責めずみんなで変えていく

そして、虐待などが起こる前のケアも大事です。

親や保護者が虐待をしないための地域づくり、子育て支援の対策だけでなく、ひとり親家庭でも子どもに十分な愛情や教育ができる社会保障、長時間労働を前提にしない働き方改革など、様々な対策が必要です。

私の好きな言葉に、詩人・劇作家オスカー・ワイルドの「すべての聖人に過去があるように、すべての罪人にも未来がある」というものがあります。ここで言いたいのは、親や保護者を悪者だと思えということでは決してありません。

結愛ちゃんと心愛ちゃんだけでなく、ここ10年間で児童虐待で命をなくした子どもは1000人にものぼりますが、その約半数は、無理心中で親も一緒に命をなくしています。親自身も苦しんでおり、親にも手を差し伸べなくてはいけません。

ただし、親も苦しんでいるからといって、「親=善人=虐待をしない」という公式は成り立ちません。

私たちがやるべきことは、「虐待」「暴力」が起きるメカニズムを正しく理解し、それらがいかに日常に潜んでいるのかを理解することで、リスク対策をしっかりしていくことが大切なのです。

2月26日から、子ども向けにこちらの動画も公開しました。

虐待だけでなく、不適切養育(マルトリートメント)と呼ばれるもの、すなわち、子どもが我慢しなくてもよい事例を集めたものになります。

少しでも多くの子どもたちが自分を責めたりひとりで我慢しなくてもいいようにという願いを込めて作りましたが、子どもと接する大人もぜひ知っておいてほしいです。

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