漫画版の作者・池田邦彦氏(左)と著者の黒井千次氏

『働くということ』の作者2人が「仕事」にまつわる悩みに答えた

就職で失敗したくないあなたへ

1982年に刊行された『働くということ -実社会との出会い-』(講談社現代新書刊)は、35年以上売れ続けている超ロングセラーだ。お金はあまりもらえなくても、納得のいく仕事がしたいと望むのはなぜか。働くことの根源・本質とはなにか――。

今回、本書の漫画版となる『漫画 働くということ』の単行本化(講談社刊)を記念し、新書版著者の黒井千次と、漫画版著者の池田邦彦が特別対談。後編では、漫画版の読者からの質問をベースに、働くことの意味と意識を語りつくす。

前編はこちら→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60017

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就職してから本当の「職探し」がはじまる

──ここからは漫画版の読者からの質問に答えていただければと思います。「就職活動する上でやりたい仕事がなく、養う家族もいない。そういう人は何をモチベーションに働いていけばいいのか」と、20代の読者から来ています。

黒井:やりたいことが見つけられないと言われるけれども、就職する時に自分がどういうことをやってどうなるかってことは、わからないですよ。

うまく論理的には言えないけれども、こういうふうにしたいからこういうふうになっていくべきというのではなくて、就職というのはチューブから押し出されるみたいに押し出されていっちゃうので、押し出されていった先に何があるかなんてことは考えている暇はないんです。会社に入ってから先に、自分で考えることになるんで、そこはちょっと順序が違うんじゃないかなぁ。

著者の黒井千次氏

――押し出される前にわかろうとするのは難しいと。

黒井:ほとんどわからないだろうと思います。とはいえ、僕らの仲間の中には、わかってるやつもいました。彼は経済学部で、大企業の面接を受けたんです。重役面接で「お前はどうしてこの会社を選んだんだ」と偉い人に聞かれたら、「私はここで革命を起こすために入るんだ」と答えたそうです。

彼は学生運動をやっていた人間で、その会社では半ば伝説的な話になっているかもしれないんだけど、実際にその一件で気に入られてその会社に入っちゃった。会社もなかなか太っ腹だと思うんだけど、彼はしばらくその会社に所属して、労働組合運動もやり、その後会社の工場があるところで市議会議員選挙に出馬しました。

結局会社を辞めて、最後どうなったかは知りませんけれど、ただそんなことを言って会社に入るやつは珍しい。就職活動なんてそんなふうなものなのだ、と言えるとも思うんですよね。

だから逆に、就職してから職探しをしなきゃいけない。本当の職業というのは一体なんだろう?というのは、与えられた職場の中で、周りを見回して自分で発見していかなきゃいけないんです。

そういう意味で言えば考えが甘いというのかな、会社にはそんなふうに思い悩んで入っていくものではなく、もっとやむを得ず、しょうがないから入っていくものなんです。そんなに楽しいことがあると思わないほうがいい。

 

でも会社の中で仕事をやりだしてみたらば、これはただごとではないということにぶつかる。その時に本当に職業と自分との関係といいますか、自分が働いて何をするかということが見えてくるという、そういう関係じゃないでしょうかね。

別に、これやりたいからあれやりたいからといって会社に入る必要はない。与えられた仕事をやってるうちに、現場でいろいろと見たり聞いたり、叩かれたり躓いたりということを通して「あぁそうか」とわかってきて、これならやるに値する仕事だとか、これはつまらない仕事だなと思うとか、その選択ができるようになってくると思います。

例えば相撲取りとか、特別な職業の場合は別でしょうけども、そうでない場合は、むしろ就職してから本当の職業を探していくというのが実情ではないかと僕は思います。

池田やりたい仕事があるというのも、ある意味レッテルを貼ることですよね。レッテルを並べて、これは嫌だ、これは好きとかやっていても、働くことの本質は見えてこないです。

『働くということ』が今も読まれるのは、働くことの本質は変わらないからです。気を迷わせるようなものがいっぱいあるから、むしろ本書に書かれている内容が輝いてみえてくるのだと思いますね。