私に格闘家引退を決断させた、名古屋ご当地ラーメンのあの味の思い出

やさしく肩をたたいてくれた気がして
佐藤 嘉洋 プロフィール

引退を考えていた時に…

2013年頃から計量後の食事を摂る際、がん患者などに生じる関連痛と呼ばれる違和感にも似た痛みが、背中に走るようになっていた。なぜ試合前だけ背中が痛くなるのか、指摘されるまでわからずにいた。日常からの節制と減量の繰り返しにより、私の内臓は予想以上にボロボロだったようだ。

そして2015年に2戦連続KO負けを喫した数日後、「進むべきか、ここで止まるべきか」の狭間で自問自答しているさなかに、好来系ラーメンを食べた。スープを一口すすった。根菜系を中心とするダシが、やさしく、包み込むように、ボロボロの内臓ばかりでなくボロボロの心にまでじんわりと染み渡った。

そして計算された茹で加減の麺を一口。先に飲んだスープと麺のバランスの中に、ネギによるシャキシャキとした感触。脂っこくもなく、かといってパサパサでもない良い具合のチャーシューと、手間暇のかけられたメンマの小気味好い食感。

 

ふと、私の頬に、涙が一筋、はらりと伝わった。

目の前にはまだラーメンが残っている。いつもはスープまで飲み干せるのに、疲れ切った内臓は少ししか受けつけない。こんなにもじんわりとやさしく身体に染み込み、調和しているラーメンを完食することができないなんて……。

「よくがんばったじゃないか。もういいんだぞ」と、残された好来系ラーメンにやさしく肩を叩いてもらった気がした。そして私は、深く息を吐き、誰にも聞こえないか細い声で呟いたのである。

「もう終わりだ……」

佐藤嘉洋が引退を決めた瞬間である。

じんわりとやさしい好来系ラーメンで、傷つき疲れた身体をじんわりと癒し、イラつきトゲトゲしくなった精神(こころ)をやさしくしてあげましょうよ。