米中露で拡大する「軍隊の民営化」その語られざる実態

暴力はやはり拡大し続けるのか
河東 哲夫 プロフィール

ロシアの特殊部隊と民営軍事会社

ロシアでは特殊部隊と言う場合、参謀本部情報総局(GRU)の運用する軽歩兵部隊を指すのが一般的であった。最近ではこれに加えて、ごく少数の超エリート兵士から成る特殊作戦軍(SSO)が編成され、従来型の特殊部隊とともにクリミア併合作戦やシリア作戦に投入されている。下記のようにエジプトからリビアに浸透していると言われるロシア軍特殊部隊も、SSOである可能性が高い(小泉悠『MKⅢ』第5号)。

しかし最近、ジャーナリズムの関心をさらっているのは「傭兵会社」(民営軍事会社)である。

17年10月12日付の”Jamestown”は、ロシアの傭兵企業Wagner社がシリアや東ウクライナに傭兵を送り込んでいる、この2週間ほどでシリアではロシア人兵士が100名ほど戦死しているのだが、その多くはWagner社の傭兵である、彼らの給料は月2500ドルで、会社の方は一人派遣するたびに政府から5000ドルを受け取っている、と報じている。

ロシア刑法は傭兵を禁じているのだが、1992年には既に公安当局FSBが関与するRubicon社が兵士をボスニアに派遣したと報じられている。そして2008年のグルジア戦争を契機に、Slavonic Corps等10以上の傭兵企業が出現したとされる。

これらが下火になった2013年以降、新興のWagner社が話題を独占している。同社はケータリング業から身を起こし、プーチンの知遇を得て、軍の給食を受注し一気に大企業を築いたイヴゲーニー・プリゴージンなる者が、一説ではゲラシモフ軍総参謀長の後押しで設立したものと言われる。兵力のケータリングというわけだ。

ロシアの傭兵企業は、国防省には嫌われていると言われ(“Jamestown” 2018年2月15日)、またシリアでは油田占拠を狙って動いて米軍に撃滅されるなど(2018年2月)、必ずしもロシア指導部の意向を100%反映して動くものではない。そこは、米国の民営軍事会社と異なるところで、ロシアの混沌状況を反映している。

ロシアの傭兵企業は、その活動があまりに目立ってきたためか、議会でこれを法制化して規制せんとする動きがある。しかし軍、諜報諸機関の利害が入り乱れて法案はいずれも流れている。また武装化した民営団体は、ロシア国内では潜在的な脅威となる。

現に昨年11月には、傭兵会社E.N.O.T.社の国内拠点数カ所に手入れがあり、要員が国内テロを企んでいたとして逮捕されている(“Jamestown” 2018年11月15日)。

 

輸出品目となったロシア傭兵

ロシアはやたら大きな領土を持っているため、周縁の多数の国とつきあっているが、外交の手段としてはエネルギー資源の輸出、エネルギー資源開発面での協力くらいしかなく、どうしても軍事力に依存しがちになる。

クリミア併合、シリア介入においては、その軍事力が最大限の効果を発揮している。それはロシアが何か新しい状況を自分の負担でゼロから作り上げるよりも、米国やその他の国がしかけたことを僅かな兵力で妨害できる場合に限られている。

ところが米国との対立が嵩じ、原油価格の高騰で経済余力も高まった今、ロシアが傭兵を使って能動的な進出を試みる例が増えている。それはアフリカ、南米等遠隔地に及びつつあり、少々実力を超えた背伸びの感がある。

これにはロシア政府の意向だけでなく、傭兵会社関係者の私欲や、反米ナショナリズムの暴発がからむ面もあり、いつかは皆殺しに会う等の悲劇を招くであろう。

アフリカでロシアの傭兵が云々されるようになったのは、中央アフリカ共和国が最初である。この国では内戦が続いているが、かつての宗主国フランスが2016年兵力を引き上げた後、トゥアデラ大統領が2017年10月ソチでロシアのラヴロフ外相と会談して協力協定を締結(“Washington Post” 2018年6月1日)、これを受けて現在中央アフリカ共和国には、制服軍人が60名、傭兵が1500名いると言われる(“Jamestown”2018年11月6日 )。

またロシアはカダフィの時代、リビアと緊密な関係にあったが、今また、東部を支配するハリファ・ハフタル将軍を抱き込み、勢力扶植をはかっている。ここには、この1年ほどロシアの軍人ないし傭兵が目撃されている。一部の報道によれば、ロシア軍諜報機関GRUに属する要員数十名が活動している(“Interfax” 2018年10月22日)。

近年、紅海の出口バブエルマンデブ海峡の両岸が、戦略的要衝として注目を浴びている。かつては大英帝国がイェーメンのアデン港を拠点としてスエズ運河への入り口であるバブエルマンデブ海峡を守るとともに、インド洋方面へのにらみを利かし、戦後はソ連がインド洋で活動を展開するとともに5000名程度を派遣してアデン港を使用していた(“Jamestown” 2018年10月12日)。

今、同様の打算から沿岸諸国に軍事プレゼンスを植え付けようとする動きが諸国に目立つようになってきた。ジブチには米国、中国が海軍基地を構えているし(日本の海上自衛隊の拠点もある)、サウジ・アラビアのイェーメンへの軍事介入もこの地への支配権維持を狙ったものだろう。

これに対抗するイェーメンのフーシ勢力の――イラン系と目される――Mahdi al-Mashatは18年夏に訪ロしてプーチンに支援を要請、その後ロシアの傭兵がイェーメンに現れたとの報道がある(”Jamestown” 2018年10月12日)。

またスーダンのアル・バシル大統領は国民弾圧のために国際刑事裁判所から指名手配を受けているが、ロシアは彼を2度招待。その後Wagner社のプリゴージンがスーダンでの金採掘特権を得て、ロシア軍用機で傭兵を送り込んでいると言われる。

1月23日ロシア外務省は、ロシア政府とは無関係だが、スーダンの軍・警察関係者を訓練するためのロシア人が滞在していることを公式に認めた。これに対してスーダン政府側は、ロシアに紅海沿岸の基地を提供する用意があると何度も示唆している(“Jamestown” 2019年2月6日 )。

アフリカであれば、シリアの空軍基地を経由して兵站をはかることができるが、遠いベネズエラにまでロシアは手を出すようになった。それはこれまで米国がロシア周辺での民主化運動を煽ってレジーム・チェンジを実現したことへの仕返しとして、同国内政に介入し、権威主義的なマドゥーロ政権を支えようとするものである。

ロシアはベネズエラにこれまで45億ドル程度の借款を提供している(“Wall Street Journal” 等、2017年4月12日)。2018年12月ベネズエラ情勢が緊迫化すると、ロシアは2機の爆撃機等をベネズエラに送り、カリブ海を示威飛行させたが、米国から警告を食らって帰国した(“Jamestown” 2018年12月13日)。

更に情勢が緊迫化した2月になると、マドゥーロ大統領護衛のためにWagner社が傭兵を派遣したという報道が現れている(“Jamestown” 2019年1月29日)。