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米中露で拡大する「軍隊の民営化」その語られざる実態

暴力はやはり拡大し続けるのか

軍隊と言えば、西欧でも17世紀の30年戦争までは、傭兵なるものが大活躍した。つまり「何々組」のような武力集団で、雇ってくれる君主の為に(カネの範囲内で)戦ったのだ。

だが17世紀以降は国民国家という巨大な徴税装置が誕生し、そのカネで英国は強大な海軍を作って植民地を獲得、そこに機械で大量生産した商品を売りつけて産業革命を展開した。つまり西欧の近代国家は税を集めて軍を作り、戦争で植民地を獲得する、まさに「戦争マシーン」として成立したのだ。

そのあげく、近代国家同士のぶつかり合いは2度の世界大戦、そして冷戦を生む。今でも米ロは何千もの核兵器で脅しあい、米国は年間7000億ドル以上もの国防費を使って世界ににらみを利かせる。

冷戦後は、対テロ戦争、地域紛争など、中小規模の衝突が戦闘の主流になる。そして、米国、欧州の主要国、中国等は徴兵制を廃止、あるいは停止している。

この2つを背景に、主要国、特に米国、ロシアの軍隊には大きな変化が生じた。それは戦車等多数を抱え、大規模陸戦に適した1万人単位の師団に代えて、5000人規模の機敏な旅団への編成替え、加えて小人数の精鋭「特殊部隊」の多用、そして「民営軍事会社」、つまり傭兵の利用である。

その結果、世界での「戦争の敷居」は確実に低くなっている。人類は、暴力で望みを遂げようとする悪い癖を全然克服できていないのである。経済力があれば安心と思っていた日本人は、結局甘かったのだ。

 

民営化、米国のケース

特殊部隊も民営軍事会社も、実は冷戦時代からあった。軍の民営化を最初に始めたのは英国で、1960年代から元特殊部隊がAegis、Watchguard International等の会社を設立している(“The Economist” 2013年11月23日、“Svpressa.ru” 2015年2月11日.)。

米国ではもともとレーガン大統領の時代、CIAなど諜報機関が敵対国攪乱工作をNGO等に代行させたことから攪乱工作の「民営化」は始まったが、イラク戦争でそれは軍にも及ぶことになった。2014年の東ウクライナ騒動でも、ロシアは同地で米国の傭兵会社が活動していると主張した。

これら民営軍事会社は、豊富な国防予算を使って、員数の足りない軍を補う。軍人や諜報要員は早めに引退して、民営軍事会社で高給を食むことを好むようになった。

これら軍事会社は戦闘に従事することはなく(敵を殺すとそれは単なる殺人となり、刑事罰をくらってしまう)、兵站等、戦闘以外の任務に従事する建前であったが、殺傷事件等をきっかけに国際的非難を浴びると、すぐ違う看板を掲げて目をくらませた。

初期にはBlackwater(1997年設立)等の会社が名を上げたが、イラク戦争でイスラム教徒拷問に関与、2007年にはバグダッドで7名の市民を殺害したかどで、4名の要員が米国裁判所で有罪の判決を受け(Wikipedia参照)、その後Academi、DynCorp International等に名を変えた。

Blackwaterを設立したエリック・プリンスはその後、中国の海外警備員派遣企業を束ねるChinese Security Alliance(香港)に何らかの関与をしている(“Lenta.ru”18年1月10日)。因みに彼は、トランプ大統領の戦略問題特別補佐官を務めたステーブ・バノンの親友だと言われる(” The New Yorker” 18年7月9日)。

その後も米国の民営軍事会社DynCorpがリベリアで政府軍兵士を訓練した例が報道されたし(Wikipedia参照)、2018年末、トランプ大統領がアフガニスタンからの米軍撤退を「指示」した時には、米軍特殊部隊を民営会社に移籍してそのまま残す案が検討された(『独立軍報』〈ロシア〉2019年1月14日)。

米国の場合、特殊部隊の海外での活動も顕著であり、これは国際情勢を変える力を持っている。正規軍と異なり、その海外派遣は議会の承認を得ずに行われていて、政権にとっては使いやすい兵力となっている。

特に、正規軍の海外派兵をやめることを公約にして当選したオバマ大統領の時に、特殊部隊の多用が目立った。2011年以来Special Operations Forces(SOF)員数を7万名に増強し、80カ国に8000名を配置している(”The Nation” 2017年10月30日)。

2011年、ビン・ラディンを海軍の特殊部隊SEALsが殺害したのを初め、17年10月にはニジェールで米陸軍特殊部隊の隊員3人が現地武装勢力からの銃撃を受けて死亡したが、米国民はここに米軍がいるとは全然知らされていなかった。特殊部隊の多用は、米軍の海外での行動を敏速、かつ隠密にしている。