ファンドマネジャーが割の合わない「大学講師」をあえてし続けるワケ

自分が得たものを社会に返していく
藤野 英人 プロフィール

中国で出会った先生が教えてくれた大切なこと

今年は試験問題を採点していて、解答用紙に書いてもらった「この講義で学んだこと」を読み、とてもうれしくなりました。

ありがとうという言葉が一番の投資だと言われて、毎日コンビニの店員などにありがとうと言うようにしたら、毎日店頭に立っている外国人の店員が僕を見るとうれしそうにしてくれて、心が通うということを実感した」

「多くの経営者がお話がうまいのでお話がうまい人が経営者になれると最初の頃は思っていたが、実践と行動の数や経験や体験が真実の言葉になり、それが心を動かすのだとわかった。自分は話が下手でそれで自信がなかったけど、話すだけの体験が足りないだけだと思ったらかえって自信が持てた」

マネジメントというのは人に対する関心なんだとわかった」

「さまざまな小さな選択肢の中の小さな決断の集合が今の自分であることがわかったし、将来もそうなんだとわかった」

講義から何を感じ、何を学ぶかは人それぞれです。彼らなりに何かを感じ、それを今後の人生に活かしてもらえれば、それは私にとっての大きなリターンなのです。

〔photo〕iStock

私が「人に教える」ことの力を信じているのは、私自身、大学時代に人生が変わるような体験をしたからです。

大学受験に失敗した私は、1、2年生のころは家に引きこもってピアノばかり弾いていました。大学から成績優秀者に給付される奨学金を支給されていたのに、講義に出ず勉強もしないので成績は下がるいっぽうでした。

転機が訪れたのは、大学3年生のときです。たまたま日本と中国の学生の国際交流団体「日中学生会議」のビラを見かけ、「三国志が好きだし中国に行くのも面白いかもしれない」と思い、日中学生会議に入って訪中することになりました。

そして中国で、私はある数学の先生に会ったのです。

 

数学者とは思えないほど筋骨隆々とした人物だったので、最初はびっくりしました。なぜか尋ねたら、彼は数学オリンピックで金メダルをとったものの、その後、文化大革命により10年にわたり強制労働をさせられていたといいます。もちろん、その間は数学の勉強も禁じられていたそうです。許されて大学に戻った彼は、数学をまた勉強できる喜びにあふれていました。私は、受験に失敗したからと腐っている自分を恥ずかしく思いました。

彼は、私にこう言いました。

「今日は本当に楽しくてしょうがない。君がいるから楽しいんだよ」

私はハンマーで頭を打たれるような衝撃を受けました。学歴がどうであっても「あなたがいるから私は幸せだ」と言えるほうがずっといい、と思いました。

私は彼の言葉から、好きだということを大切にして今を生きている人の素晴らしさ、そして「あなたがいるから私は幸せだ」という人が人を幸せにするのだということを知ったのです。先生と話したのはたった1時間半でしたが、その時間で私は自分の人生が変わったと感じ、教育の力を知りました。

教える立場になった今、私は先生から教わったことを学生に返していきたいと思っています。こうして自分が得たものを社会に返し、そこからまた何かを得ていくということこそ、「投資」の本質なのです。