池江璃花子、堀ちえみ…「がん告白」に医師が思う、患者の心の葛藤

専門医が見た様々な患者の「闘い方」
沢田 浩 プロフィール

人は些細なことで前向きになれる

がんを告知され、余命まで伝えられた患者さんたちの不安な心の奥は深い。     
●悪性リンパ腫が再発し、化学療法を繰り返す52歳の男性は、些細なことで怒り出すという。妻が作った夕食さえ気に入らない。「俺の口内炎がひどいのに、こんな辛い物を作って。食べられない!」と。

●肺がん治療中の70歳の男性は、「自分は春までもたないかもしれない」と言いながらも、「春にはリンゴの木を植えるんだ」といい、「孫が小学校に入学する。だから、何としても生きなきゃ」と繰り返していた。

怒りとあきらめと、希望が交錯する日々なのだろう。

卵巣がんの再発で奈落の底に落とされた60代の女性で、その後の4年間、抗がん剤治療を繰り返したBさんがいた。腫瘍マーカーの数値が上ってきた時は本当に落ち込むのだという。

「今度こそ治らない。きっと死ぬ、なんのために治療するのか――」と絶望し、家族から、「元気出して」とか、「頑張って」と言葉をかけられても、「あなたみたいな元気な人に私の苦しみがわかるものですか」と言い返してさえいたという。そんなBさんが、ふとしたことで前向きな気持ちになれたことがある。そのきっかけを、佐々木医師の近著ではこう記している。

《そんなBさんを救ったのが庭に咲いていたコスモスでした。ある日、台風が来てコスモスはすべてなぎ倒されていました。Bさんは手入れする気にもなれず、そのまま放っておいたそうです。

「しかし、数日後、倒れたままのコスモスの先端が再び太陽に向かって垂直に伸び、花を咲かせたのです。そんなコスモスを見ていたら“もしかしたら自分もなおるかもしれない”という思いが胸をよぎりました」》
 
その後の5年間は再発もなく過ごされているBさんの話を聞いて、佐々木医師はこう感じたという。

 

「人は深く沈み、たくさん悩んでいても、まったく関係ない些細なことがきっかけで気分が変わることもあるのです。もしかしたら、それで人は生きていけるのかもしれません。心を和らげる一つの方法として、“不安な気持ちを誰かに話す”ことが効果的だと思います。話す相手は、家族でもかかりつけの医師でも誰でもいい。自分の心の中だけで我慢し続けるより、外に出したほうが気持ちは楽になることが多いのです。

たとえ話した相手に失笑されても、その後は、かえって気持ちが楽になります。多くの病院には相談室やがん相談支援センターなどがあります。がん拠点病院では、他院にかかっている患者さんでも相談にのってくれます。がんに対する不安は、一人で抱え込まないことが大切です」

心の中で不安を抱えるのではなく、がんといかに向き合うか。それが、がんを告知されてからの闘い方の第一歩でもある。

佐々木医師が、がんの患者さんの相談を受けた時に、いつも考えることは、
「この治療法でよいか」
「ほかに治療法はないか」、そして、
「患者さんの心は大丈夫か」ということだという。

そのうえで、患者さんには、
「不安ですよね。でも、応援しています。必ず応援しています……」
と話している。

「医療は、患者さんと医療者の共同作業ともいわれています。大事なことは普段の診療で、“患者さんが医師、医療者と話しやすい雰囲気にある”と感じているかどうかだと思います。一言で言い表すと、患者さんの不安な心をしっかりと聞き、一緒に悩みながらこれまでの治療法を振り返り、そのうえでさらに次の一手を考えてくれるような医師です。そういう医師はたくさんいます」
(佐々木医師)

そのためにはセカンドオピニオンも大切だ。現在、多くのがん拠点病院ではセカンドオピニオンを推進している。

●診断は間違っていないか――。
●治療法は妥当なのか――。

ほかの病院の意見を聞いて、納得して治療を受けるためのものだ。

「自分の命がかかっているのです。患者さんの権利です。遠慮はいりません」と、佐々木医師は言う。

僕ががんと診断された時、池江瑠花子さんや、堀ちえみさんのように、がんと向き合いながら生きていけるか、自信はない。けれど、もっともっと生きるためには、そんな心の持ち方でなければ進めない――。そう僕は強く感じた。

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