張飛が艶っぽい遊女に⁉江戸の人々が遊び倒した「三国志」のパロディ

局アナが語る「三国志の日本史」②
箱崎 みどり プロフィール

こうして「三国志」のパロディを眺めてくると、大衆文化の中で、外国の名前・地名・時代背景などに変更を加え、『三国志演義』を日本の大衆に親しみやすい形に馴染ませて取り込んでいく過程がよく分かります。

日本における『三国志演義』、「三国志の日本史」は、一面においてこのようなアレンジの歴史とみることもできるのです。こうしたアレンジにも大いに助けられ、「三国志」は、庶民の世界により浸透していきます。

玩具の青龍刀が大流行

庶民に身近な文化として、前回は川柳を例にご紹介しましたが、絵画でも、「三国志」やその英雄をモチーフにした作品が大量に描かれました。

有名な絵師の名を挙げていくだけでも、英一蝶、鳥山石燕、曾我蕭白、円山応挙、池大雅、与謝蕪村、谷文晁、渡辺崋山、葛飾北斎、歌川国芳など、まさに枚挙に暇がありません。

浮世絵に描かれることもあった見世物にも、「三国志」は取り入れられました。文政期には、細工見世物が興行として成立。文政2(1819)年、上方で人気を博した籠細工の見世物興行が浅草にやってきた際、真っ先に披露されたのが、巨大な関羽の籠細工で、高さが6.7メートルもあり、怯えて泣き出す子どももいたほどでした。

翌年、籠細工に対抗して企画された麦藁細工の題材は、孔明弾琴、周倉人形などに、長さ22メートルに及ぶ青龍偃月刀。この刀に、劉備や五虎将軍など、三国志の豪傑たちが極彩色で表現されました。

下絵・彩色から、チラシやパンフレットまで、葛飾北斎の手によるものです。ここから、子どもたちの間で、玩具の青龍刀が大流行したとも伝えられます。

玩具の青龍刀が、歌川国貞「見立風俗三国志 関羽単刀赴呉会」に描かれているように、書籍、芸能、絵画や習俗、それぞれが密接に関連し、影響を与え合っていたのです。

子どもと言えば、端午の節句に使う五月人形や幟旗にも、関羽と周倉、孔明などが描かれました。中でも、長坂坡で阿斗を救う趙雲の図は、男の子の成長を祈る端午の節句のぴったりの画題。

さらには、女の子向けの印象が強い押絵羽子板にも、劉関張三傑を描いたものがあるそうです。

現代のお祭りにも使われている

そのほか、絵馬やお祭りの山車にも、関羽や張飛が描かれました。中でも、文政10(1827)年制作、尾張西枇杷島の天王祭のからくり人形は、「華佗の舞」という趣向。

矢傷を負った関羽が華佗の治療を受けていると、どこからともなく飛んできた鳥が舞い苦痛を和らげたというお話にちなんで、太鼓を打つ子どもに合わせ、もう一体の子どもが鳥に変身するからくりだと言います。

愛知県清須市の西枇杷島まつりで、現在も使われているそうです。写真を見ると、作られてから200年弱経っているとは思えない輝き。大切に使い継がれてきたことが窺えます。

その他、今も、ねぶたやねぷたの巨大な灯篭で、三国志の武将たちの姿が新しく作られています。

「三国志の日本史」の中には、江戸時代の人々の遊び心から始まって、今に続く伝統として根づいたものもあるのです。

連載第3回に続く!


<参考文献>
(第1回の参考文献に加えて)

小池正胤・叢の会編『江戸の絵本―初期草双紙集成―Ⅱ』(国書刊行会、1987年)
洒落本大成編集委員会編『洒落本大成第11巻』(中央公論社、1981年)
洒落本大成編集委員会編『洒落本大成第18巻』(中央公論社、1983年)
叢の会編『草双紙事典』(東京堂、2006年)
高木好次・山本錬藏・渡邊幸編纂『洒落本体系』第9巻(林平書店、1932年)
立間祥介『平凡社版完訳四大奇書 三国志 上巻』(平凡社、1962年)
徳島市立徳島城博物館編『美術の中の三国志』(徳島市立徳島城博物館、2006年)
徳田武編・解説『李卓吾先生批評 三国志』第6巻(対訳中国歴史小説選集4、ゆまに書房、1984年)
日本名著全集刊行会編『日本名著全集 江戸文芸之部 第12巻(洒落本集)』(日本名著全集刊行会、1929年)

神田正行「墨川亭雪麿『傾城三国志』翻刻(1)初編上帙」(『明治大学教養論集』504、2015年)、1-38ページ
神田正行「墨川亭雪麿『傾城三国志』翻刻(2)初編下帙」(『明治大学教養論集』515、2016年)、107-137ページ
神田正行「墨川亭雪麿『傾城三国志』翻刻(3)第二編上帙」(『明治大学教養論集』520、2016年)、155-186ページ
神田正行「墨川亭雪麿『傾城三国志』翻刻(4)第二編下帙」(『明治大学教養論集』522、2017年)、33-65ページ
神田正行「墨川亭雪麿『傾城三国志』翻刻(5)第三編上帙」(『明治大学教養論集』531、2017年)、45-77ページ
神田正行「墨川亭雪麿『傾城三国志』翻刻(6)第三編下帙」(『明治大学教養論集』531、2017年)、79-112ページ
神田正行「墨川亭雪麿『傾城三国志』翻刻(7)第四編上帙」(『明治大学教養論集』534、2018年)、125-157ページ
神田正行「墨川亭雪麿『傾城三国志』翻刻(8・完)第四編下帙」(『明治大学教養論集』537、2018年)、137-167ページ
中川諭「江戸時代後半における『三国志演義』の受容―洒落本『讃極史』を題材にして」(『集刊東洋學』71巻、1994年)、76-84ページ

関連記事