若者にこそ読んでほしい『働くということ』の変わらぬ魅力

原作と漫画版の作者がスペシャル対談
コミックDAYS プロフィール

否応なく良好ではない人間関係に放り込まれる

──池田先生は、書店員から漫画家へと身を転じる時、どのようなご経験をされたのでしょうか?

池田:規模が違いますから失礼ですけども(笑)。

黒井:職場は何人くらい働いてらっしゃったんですか?

池田:一番大きいパルコブックセンター渋谷店(※現在は閉店)で20人とかですかね。アルバイトを入れるともうちょっといたかなぁ。今書店さんはとにかく巨大化してるんですが、当時はまだそこまで大きい書店はなく、200坪か300坪で大きいと言われていた時代でした。

仕事は特に嫌ということはなかったですし、子供も生まれてはいたんですが、創作で食っていきたいという思いがずっとあったんです。

やってみてダメならしょうがないけど、やらずにいくと後になって「あの時やっとけばよかったな」と多分思うだろうと考えまして、思い切って仕事を辞めたんです。当初はライター、イラストレーターをしていました。まぁなんとか食えるかな……という感じでした(笑)。

『働くということ -実社会との出会い-』黒井千次(講談社現代新書刊)

黒井:若い人たちが就職していく時に、仕事そのもののこともあるだろうけど、人間関係のことについて言われますよね。あれはたしかにそうだと思うんですよ。人間関係は、就職するとまさに逃れようもなく結び付けられてしまう。変なことが起こったり、嫌なことがあるのは当たり前だと思うんですよね。

直接は結びつかないけれども、僕の体験に則して言えば、戦争末期の学童集団疎開に行った時に、僕らはひと部屋あたり8人くらいの班に分けられて、温泉のあるホテルで過ごすことになったんです。班分けされて集団が出来ると、不思議なもんだと思うんだけど、自然と支配・被支配の関係が生まれるんです。

強いやつと弱いやつとに分かれ、日常的ないじめが発生する。とにかく嫌なやつがいて、もう顔も見たくないと思ったとしても、東京じゃないから家に帰れない。24時間そいつと同じ部屋で一緒にいなきゃいけない。その苦痛というのは一番大きかったと思いますね。

就職するというのは、そういう体験と似たようなところがあります。家には帰れるけど、家にはまたおっかない奥さんがいたりして、どちらが自分にとってより心地いい場所かわからないみたいな、しんどさを味わわなきゃいけないことも起こり得るでしょう。

でもやはり、就職とはそういうことが起こるのだということは、最初から覚悟してかからなきゃいかんのではないかと思うんです。

否応なく良好ではない人間関係に放り込まれることもあり、その中で自分がやりたいこと、望むことが与えられればそれは非常に幸せだけれども、そうじゃなければ具合の悪いことがいろいろ起こることは当たり前です。

 

そうした状況をどう切り抜けていくかということが、就職ということの中身だというくらいのつもりでないと、ちょっと幻滅したら続かなくなるんじゃないかなと思います。

僕が勤め人だった頃はそんな言葉はあまり耳にしなかったけども、ノイローゼなどに近い状態に追い込まれるという事態は当然あるでしょうからね。できればそういうことにいきなりぶつかる前に十分に覚悟をするなり、諦め方を考えるなり、いろいろと準備していないと就職は上手くいかないんじゃないかと思いますね。

いいか悪いかというのは別ですが、就職の仕方、就職というものについての考え方というのは、かつて50年くらい前と今ではずいぶん違ってしまっているんじゃないかなって思いますね。

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