著者の黒井千次氏(左)と、漫画版の作者・池田邦彦氏

若者にこそ読んでほしい『働くということ』の変わらぬ魅力

原作と漫画版の作者がスペシャル対談

「休み時間にも自由に外には出られないのだと知った時、俺は我が身を会社に売ってしまったのだな、としみじみ感じた」

これは、小説家・黒井千次が、自身の15年間のサラリーマン生活を元に、「働く」ということはどういうことなのかを考察した書籍『働くということ -実社会との出会い-』(講談社現代新書刊)の一節である。

1982年に刊行された本書は、35年以上売れ続けている超ロングセラーだ。お金はあまりもらえなくても、納得のいく仕事がしたいと望むのはなぜか。働くことの根源・本質とはなにか――。

本記事では、本書の漫画版となる『漫画 働くということ』の単行本化(講談社刊)を記念し、新書版著者の黒井千次と、漫画版著者の池田邦彦が都内で対談し、働くことの意味と意識を語りつくした。

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就職とは、生まれ変わりみたいなもの

――『働くということ』が書かれた1980年代も、2020年に差し掛かろうとしている今も、「働くということ」にまつわる悩みは尽きることはありません。今まさに就職活動をしている学生に対して、こういう考え方でいるといいというアドバイスはありますか。

黒井:僕の学生時代にもアルバイトはありましたが、アルバイトと就職することは、同じ仕事をしていても明らかに違います。何が違うかというと、立場が違うのか、身分が違うというのかわからないけども、とにかく置かれている場所は同じでも、そこの中で働いてる人間の種類が違うというのかな。どれだけアルバイトをやって、ある限られた職種についてベテランになったとしても、それは就職ではないんです。

仕事をしているということでは同じかもしれないけれども、就職とは、学生が学生の身分を捨てて、雇われ人になることなんです。その違いを身分というのは、言い方がおかしいかもしれないけども、生活環境というか、社会の中における存在の仕方の違いというのが非常に大きいと思うんですね。

著者の黒井千次氏

『働くということ』にも書きましたが、僕が実際に就職のことが頭に浮かんできたのは、大学四年生の夏休みの後です。それまでほとんど就職のことなんて誰も話もしないし、何も考えもしないみたいな格好で来ていたんです。夏休みが終わって学校へ出ていくと、なんかざわざわしていて、掲示板に求人票というのがあるらしいという話になりました。

求人票に、どこの会社がどういう条件で入社試験をするから希望者は来い、という通知が出てるんですね。それは大学の中での試験とは明らかに違うわけで、異質のものが自分の世界の中に入ってきた、実世界が流れ込んできた感じが非常に強くありました。

就職試験を受けて就職していくということは、学生の身分を捨てて別の身になるという身分上の変化が表れます。それは経済的にどうこういうことではなくて、社会的な役割と言ったら少し大げさですけど、社会的な有り様の変化というのが就職というものなんです。要するに、生まれ変わりみたいなものとして、皆考えてたんじゃないですかね。

だから学生時代にやっていることの延長線上に、何かが繋がっていくなんていう感じはないし、就職した時点でいっぺん切れる。切れてそこから新しいことが始まるという、学生時代との境目が就職だったと思うんですね。それがどこまで自覚されていたかは別ではありますけども、なんかとんでもない変化だという感じはありますね。