「K-POPは国策の産物、国家の尖兵」という理屈は破綻している

原動力は、泥臭く地道な「執念」

「K-POP産業」はいったいどれくらいの規模なのか? 大手事務所の経営は順調なのか? 株式市場からはどう評価されているか? K-POPを論じる上で前提となる基本情報について整理されている記事は意外と少ない。全4回の連載となる本稿では、その実態をファクトと数字に基づいて解き明かしてゆく。

「点」ではなく「面」で売る

前回、K-POP産業の範囲に広告や観光まで含めたことに違和感を持った人もいるかもしれないが、K-POPをよく知る人はほとんど疑問を抱かないのではないかと思う。

K-POP産業の特徴は、言葉を選ばなければ「抱き合わせ販売」だからである。

典型はCJだ。CJのK-POPを利用した事業戦略については2015年にハーバードビジネススクールのElie Ofekらがケーススタディ用に作成した“CJ E&M:Creating a K-Culture in the U.S.”(https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=48426)や、同2017年作成の“CJ E&M:KCON Goes Global”(https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=52806)がまとめているから、参照しながら概観してみよう。

前者のケース冒頭にはCJグループ会長のイ・ジェヒョンの「世界中の誰もが毎年2、3作の韓国映画を観て、月に1、2回は韓国料理を食べ、週に1、2作の韓国ドラマを観て、毎日1、2曲のK-POPを聴くようになってほしい」(“We want everyone in the world to watch two or three K-movies every year, eat K-food once or twice a month, watch one or two K-dramas each week, and listen to one or two K-pop songs every day”)という言葉が引かれている。

 

CJの事業部は健康、食品、エンタメの3つで構成され、音楽に限らずエンタメの力を使ってその他の商品を売り伸ばすという戦略を採っている。エンタメ部門E&Mへの投資は他の事業部よりも低利益だが、それでも良い戦略である(意味がある)というのがCJグループの経営陣の考えだ。

具体的には、たとえばCJは、自社のコスメや香水を売るために韓国の映画やドラマにPPL(Product Placement:映画やテレビドラマの中で役者の小道具や背景に企業名・商品名を表示させる広告手法)を駆使して成功させている(なお、古屋正亭『韓国ミュージック・ビデオ読本』キネマ旬報社、2006年によれば、PPLはCJに限らず、K-POPのMVで行われることが少なくない)。

また、K-POP関連では、2010年からLAで展開しているコリアンレストランBibigoは2013年にはPSYを宣伝に起用。最近では自社アパレルブランドの広告に傘下のMnet「PRODUCE101」から生まれた男性アイドルグループWANNA ONEを起用して成果を挙げている。

CJE&MがLAで2012年に開催して以来、メキシコや日本、タイ、アブダビなどでも行われている韓流コンベンション「KCON」は、その時々に話題になっているアイドルやアーティストをライブにブッキングして集客し、音楽に限らずe-sportsなど韓国が強い分野のイベントも開催。来場者には食品や化粧品をはじめとする韓国企業および自社であるCJグループの各種物産市を見せて韓流の「ライフスタイル」をまるごと売るというビジネスモデルである。

〈8月12日(現地時間)、「KCON LA 2018」が開催された米国の展示場、ロサンゼルス・コンベンションセンターの中は足の踏み場がないほどにぎわっていた。入場者たちはWanna One、MAMAMOO、TWICEといったK-POPスターたちの歌に合わせて体を揺らして一緒に歌を歌った。バラの香りの化粧水をつけてくれる化粧品メーカー「アモーレ・パシフィック」の体験ゾーンや、KCON限定版キャラクターのぬいぐるみを販売する「カカオフレンズ」のブースにはそれぞれ100人以上が行列していた。

ロサンゼルス・コンベンションセンターとステープルズ・センターで10日から12日まで行われた韓国文化コンテンツ展示会「KCON LA 2018」は、メインスポンサーの日本のトヨタをはじめ、米国のステートファーム保険、マクドナルド、ワーナー・ブラザースなど各分野を代表するグローバル企業に加え、韓国のLG電子、錦湖アシアナなど計208社が参加した。入場者は9万4000人で過去最多だった。

ロサンゼルス以外の地域から来た入場者が全体の93%を占め、年齢層も広がっている。業界の推定では、KCONを主催した総合コンテンツ企業CJ ENMは今年6月にニューヨークで行われたKCON NYと今回のKCON LAで、売上120億ウォン(約11億6700万円)、営業利益7億ウォン(約6800万円)以上を挙げたと見られている。このため、KCONは単なる韓流PR展ではなく、収益事業として確固たる地位を築いたという評価もある〉(「朝鮮日報」2018年8月19日、「K-POP、K-BEAUTY、K-FOODにロサンゼルスが熱狂」)

KCON2018LAでは、韓国料理の屋台なども登場した(Photo by gettyimages)

もっとも、KCONは2016年までは赤字だった。どころかHBS作成のケースには、最初に「LAで韓流コンベンションをやる」という提案がされたときには、社内からは“crazy”、つまり「乱心したか?」という声が上がったという。

初回開催時にはチケット売上だけではそもそも赤字で、スポンサーを集めなければなかったが「K-POPを聴いているのは10代だろう? 14歳に自動車の広告を見せても意味がない。もっと上の年齢層を集客してくれ」などと各社に渋られて苦戦し、アーティストのブッキングにも難航した、と書いてある。社内外から無茶、無謀だと思われていたのである(それが、2018年のKCONLAではトヨタがメインスポンサーになるのだから面白いものだが)。