小学生をやる気にさせる魔法のテクニック

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セオリー

子供を楽しませ考えさせる

明るく笑顔が絶えない外谷コーチは保育士、幼稚園教諭の資格を持つ。若手だが子供の指導経験は豊富だ

 さて、現場で指導するにあたっては、それぞれどのような方針で臨んでいるのか。東京SCの「幼児・小学生コース」で、主に幼児を教える外谷理絵コーチは次のように語る。

「子供を楽しませながら水への恐怖心をなくすことを第一に心がけています。保育系の専門学校を卒業し、保育士と幼稚園教諭の免許をもっているのですが、その過程で学んだことも役立っていますね。特に、保育園などの実習で子供の集団とふれあう経験ができたのは大きいです」

 実際、指導風景を拝見すると、まさに水中保育園のお遊戯指導といったところである。外谷さんにかまってもらいたくて仕方ない子供、ちょっと目を離すと集団を外れあらぬ方向へ行ってしまう子。恐怖心からか、なるべく水に顔をつけずにいようとごまかす女の子など、一筋縄ではいかない。水泳のコーチができる人間はそれなりにいるが、そのなかで、幼児を教えられる人材を確保するのは難しいとのことだ。

[対象]全学年
[目的]あいさつの大切さに気づく
[内容]チーム全員で行う。コーチの合図により、10人と握手をして「おはよう」と声をかける。その後、子供たちにどんな気持ちがしたかを質問する。コーチから見た感想も話す

「子供を楽しませること」に加え、「子供に考えさせること」をモットーにしているのはジェフ千葉・池上氏。まず、「サッカーおとどけ隊」は、遊びの場であること。これは、かつてゼネラルマネージャーとして、イビチャ・オシム元日本代表監督をジェフ千葉に招聘した祖母井(うばがい)秀隆氏(現:仏1部グルノーブル・フット38会長)が、ヨーロッパを渡り歩きながら学んだ結果、たどりついた方針だ。

「祖母井の定義では、遊びというのは、“その場に大人がいないこと”なのです。あれこれ指図する大人がいなければ、子どもは自分たちで考えて工夫して遊びはじめます。それを習慣にすることで、後に本格的なサッカーの指導を受ける際にも、自分なりに考えて練習・試合に臨む姿勢が身につくのです。これはプロになるために欠かせない要素。ですから、『おとどけ隊』のコーチは、いかに子供に指示をしないでトレーニングができるかを課題としています」

 具体的にはどのような指導を行っているのだろう。

[対象]低学年
[目的]コミュニケーションを図る
[内容]誕生月で集まる。声を出してはいけない。慣れたら今度は生まれた日の早い者順に並んでいく。声を出してもいい

「教室は45分ですが、最初の15分はボールを使わず鬼ごっこのようなことをやります。ラスト15分は、指導している100人の子供たち一斉に、4対4の試合をやらせます。サッカーのルールを知らずに、手でボールを持ってしまう子もいるのですが、それについてもうるさく言いません」

 するとやがて、「サッカー初心者はここまで手を使ってもOK」といったルールが子供たちの間でできていくのだという。また、もう一つ「サッカーおとどけ隊」が重視していることに、コミュニケーション能力の伸長がある。

「たとえば、わざと小さな声で“集合”というときがあるのですが、私の声の届く範囲にいる子だけ集まってくる。そこで“自分だけ集合できればいいと思うのではなく、遠くにいる仲間にも声をかけてやるべきじゃないか”などと諭します。集団として機能するために、チーム全員でコミュニケーションを取り合う。これもまた、プロ選手に必須の能力と言えるでしょう」

[対象]低学年~高学年
[目的]キックの正確性を上げる
[内容]2人1組でシュートゲーム。マーカーでゴールを作り、自分のゴールと相手のゴール両方通過したら得点とする。ゴールの大きさ、2人の距離等は自分たちで決める。
図3点/JEF UNITED

 ほかにも「おとどけ隊」独特の練習(図参照)がある。「握手ゲーム」の目的はあいさつの大切さに気づき、仲間意識を共有すると同時に「これから練習だ」と、やる気にすることにある。

「ノンバーバルトレーニング」では声を出せないので、言葉を使わない(ノンバーバル)コミュニケーション、たとえば指で生まれ月を示すなど、どうすればいいのか考える力が身についていく。

 また、「キック」は「ぼくたちは下手だからゴールを大きくして確実に得点しよう」などと語り合うことで、コミュニケーション能力と、考えて練習する姿勢を培うのに最適な練習方法である。

 これらのジェフ千葉のやり方は、サッカー界で主流というわけではない。ただ、「おとどけ隊」創設時に指導を受けた小学生が、ユース、プロ選手になる今後に、世界の頂点に立つようなサッカー選手が現れることを期待したい。