笠間の森に息づく、自由闊達な陶の世界vol.4/香菜子が旅する茨城

陶芸で知られる、茨城県笠間市。江戸時代中期から続く、歴史ある陶の地にして、伝統や製法にとらわれることなく、外からも作家を招き入れ、柔軟に発展してきました。

豊かな自然の中で生まれる自由闊達な作陶は、森で土と戯れ生きる原始の楽しさを、私たちに伝えるようでもあります。今、概念に縛られない、新しい陶の世界へ。

 
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陶芸だけではない、
笠間の広がりを感じる旅へ。

恩師のアトリエで、久しぶりに土に触れた香菜子さん。「楽しくて夢中になってしまいました。続きは東京で」と、土との再会を約束した。

「僕の作品はロクロをやる普通の陶芸と離れているものですから、大学時代には、香菜子さんに変な影響を与えたかもしれません。でも今また改めて、肩肘張らずに自由に土に触れる制作もいいじゃないですか」

笠間では名物の「陶炎祭」の他、美穂さんを始め、笠間らしい元気な若手陶芸家が主催し、新作を発表する「陶と暮らし。」など、新しいもの作りの精神を伝えるイベントも生まれている。陶芸は、実用品としての器だけを指すのではない。一定のあり方に縛られない表現や可能性に満ちた分野だという原点に、伊藤さんのアトリエで立ち返ることとなった。
 

 

神社の手水舎の繊細な細工に感動。

さて、これまで陶を旅してきたが、笠間の魅力はそれだけではない。恩師のアトリエを後にして、笠間稲荷神社を訪れる。日本三大稲荷のひとつとされるこの神社の参拝客数は関東随一。
 

門前町には、名産である栗を売る商店や、くるみを入れた甘いいなり寿司の店が並ぶ。名物の栗のソフトクリームを急いで味わい、人もまばら、どの店もシャッターを降ろしかけた夕方に参道を進み、願いを込めて手を合わせた。
 

遡って朝には、笠間から車で1時間ほどの守谷へ、香菜子さんのお姉さんのパン屋〈バッケンバルト〉にも足を伸ばした。〈ビゴの店〉で修業した旦那様と2人で営む店は、少しずつ丁寧に、近くの工房で作った焼き立てのパンやドルチェを運んでくる。

くるみパンや、クロワッサン、薄焼きりんごのデザートパンなど、どれも店に並ぶとすぐに買われていくから忙しい。住宅街の一軒家を改装した店は、庭が見えるイートインスペースも落ち着く。

「小さい頃、姉とは一番たくさん喧嘩したかもしれません(笑)。モデルをやっているけれど、実は、私がきょうだいで一番、背が低いんだよね」
 

お姉さんとの会話に、笑みがこぼれる。こうしてしばしの再会を楽しんだ後は、手打ち蕎麦をいただいたり、笠間の作家の作品を集める〈回廊ギャラリー 門〉へ立ち寄ったり。

「日本製でも、少し北欧の雰囲気もあったりする器が好きなんですよね。これはイメージにぴったりかな」
 

道の駅〈JA常陸 農産物直売所 土からのたより〉で産直の自然薯の蕎麦やニンニク、ここの名物だという茨城県産の鶏を使った焼き鳥などを購入。/茨城県笠間市押辺2709-137 ☎0299-45-8989

器を吟味しながら回廊を巡り、鴨瑞久氏の湯呑みなどを購入。帰り道には、道の駅で地元産の焼き鳥や自然薯の蕎麦、旬の野菜を手に入れる。

旅の終わり。日帰りで慌ただしく過ぎていった一日を振り返って、「懐かしい人たちにも会えて、まるで実家に帰ってきたような温かな気分になりました」と、香菜子さん。
 

人もまばらな夕方、駆け足で参拝した笠間稲荷神社。

「東京と同じ関東にあって、近いし、いつでも来られると思っていたら知らぬ間に20年以上も経ってしまっていました。しばらく子育てに忙しくて旅から離れていましたが、旅って、こうして無理にでも機会をつくらないとダメですね。おかげで茨城県のいいものとたくさん出会えました。陶芸の他にも、栗や自然薯などの美味しい恵みがあるなんて全然知らなかった。茨城はきっと、もっとPR上手になった方がいいですよね(笑)。将来、仕事としてではなく、陶芸で本当に好きなものが作れる環境を持てたらなと思います。改めて、そういう気持ちと向き合う旅にもなりました」

日常に追われる香菜子さんを、ふとすくい上げた笠間への旅。学生時代の恩師や同級生と再会し、忘れていた土のエネルギーを感じながら陶に触れ、笠間の街と戯れた、秋の穏やかな一日。幸せを感じながら。

笠間稲荷神社
茨城県笠間市笠間1
☎0296-73-0003
 
バッケンバルト
茨城県守谷市高野647-1
☎0297-48-5152

「香菜子が旅する茨城」おわり

PROFILE

香菜子 Kanako
1975年、栃木県足利市生まれ。女子美術大学工芸科陶芸専攻卒業。在学中からモデルを始め、ライフスタイル誌やCMなどで活躍。執筆、イラスト、プロダクトの制作も手がける。著書にコーディネートブック『普段着BOOK』など。

 
●情報は、2018年11月現在のものです。
Photo:Norio Kidera Text:Asuka Ochi

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