東大から「内定取り消し」を受けた大学教授がどうしても伝えたいこと

約2年裁判をした結果とその教訓
宮川 剛 プロフィール

裁判所への提訴と和解

白紙撤回のご連絡をいただいてすぐに、「クロスアポイントメント」でなく普通の客員教授としての兼任で問題ない旨のお返事を差し上げたのですが、もう人事委員会で決まってしまったので、ということでした。

その後、人事委員長の先生との連絡もとることができなくなってしまったので、人事委員会の先生方宛や、東大の教養学部長や、総長の先生方宛にお手紙を差し上げたのですが、お返事は全くいただくことはできませんでした。

そこで、やむを得ず、弁護士さんに相談し、裁判所へ提訴することになりました。

そこから2年近く裁判を続けまして、結果、先月、和解をするに至りました。

基本的には、東大の主張は、簡単にまとめると以下のようなことになります。

 
・人事委員長からの連絡は、大学として正式におこなったものではなく、雇用契約を成立させるものではない。
・東京大学では、雇用契約の成立時期は総長による任命の時(つまり着任時)であるが、今回は単に人事委員会で最終候補者が決定され、学科教授会での承認が終わっただけにすぎない。
・大学は、雇用契約が成立するまではいつでも白紙撤回をすることができる。
・雇用契約が成立する前に、現所属大学、自分の研究室、家族などの関係者に異動を伝えたのは伝えた側の「過失」である(図2)。

雇用される側としては、契約の成立(=着任日)前に、前職を退職するなど身分関係を整理し、家族の引っ越しなどもアレンジしなければりません。

「学科教授会での承認が終わっただけ」で、まだ他にも総長による発令(着任日)までいくつかのプロセスがあったとはいえ、東大の駒場では、人事委員会での教授選考結果が覆ったことはこの二十数年間は一回もなく、また長い歴史の中でもいわゆる「駒場騒動」の際の一回だけのようです。

だからこそ、この確定的な通知がその段階で人事委員長で学科長でもある先生から行われたわけです。

そのような通知の後、着任するその日まで、大学側がいつでも白紙撤回できるということは、労働者にとってたいへん不利であり、明らかに不合理な仕組みである、ということをこちら側からは申し上げました。

これに対し、東大側は、これまですべての教員はそのような状態で採用されてきたのであり、前職や家族の問題で契約時期が左右されるようなものではない、という主張でした(図3)。

これでは対等な契約とはとてもいえません。被雇用者側にあまりにも不利な契約条件となります。裁判官の方々には、労働者の権利も何らかの形で守られる必要はある、ということにご同意いただき、和解の内容をご提案いただき、和解をすることとなりました(図4)。

和解の内容のポイントには以下のようなものが含まれます。

・東京大学総合文化研究科長は、宮川に対し、人事選考において不適切な対応をとり、その結果、関係者に迷惑と心痛を与えたことについて謝罪する。
教授会の承認により人事選考が確定するまでは採用が確実であるとの誤解を生じさせない措置を執ることと、教授会の承認から発令日(おそらく着任日)までの間に十分な時間的余裕を確保することにより、候補者の地位が不安定であることにより生じうる不利益を可能な限り低減するような措置をとることを、周知徹底する。

この他に、「口外しないこと」という条件での和解条項(項目4)をいただきました。

なぜこれを「口外しない」のかの理由は明示されませんでしたが、この条項をいただくことができたこともあり、和解のご提案を受け入れることにいたしました。