海外も注目!伝統の「ジャパン」漆を科学してわかった「すごい秘密」

縄文人も博物学者も愛用した理由
瀧澤 美奈子 プロフィール

本物の漆塗り、知っていますか?

「漆塗り」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるだろうか。

筆者の頭には、汁椀や重箱、箸などが浮かんだ。ところが先日、しゃれた食器や雑貨を売りにしている東京都内のインテリアショップをのぞいてみて驚いた。

一見、漆塗りに見える商品のほとんどが、漆塗りではなく、ウレタン樹脂製だったのだ。その代わり、電子レンジや食器洗い洗浄機が使えるものも目につく。どうやら、日本人の日常から、本物の漆塗りはすでに遠い存在となっているようだ。

しかし、時空間を広げてみてみると、ウルシの木と、その樹液を利用する文化はアジアに集中しており、とくに日本の高度な漆塗り文化は、後世に残すべきもののひとつとして国内外から見直されている。

牧野さんが手がける、カスタムメイドの漆塗りの万年筆が世界の人々から人気を集めているのもそのあらわれだろう。

年間2.2トンの漆をどう確保するか

漆塗りは、歴史的に見れば日本の伝統そのものだ。

世界遺産に登録された日光東照宮をはじめ、石清水天満宮、賀茂御祖神社(下鴨神社)、平安神宮、北野天満宮、平等院鳳凰堂など、多くの神社仏閣の塗装には漆が使われている。

【写真】日光東照宮の上社務所(祈祷殿)と神楽殿
  日光東照宮の上社務所(祈祷殿)と神楽殿 photo by gettyimages
【写真】賀茂御祖神社
  賀茂御祖神社 photo by gettyimages

文化庁によれば、これらを後世に残すには保存・修理のための塗り替えに年間2.2トンもの大量の漆液が必要なのだという。現在は、コスト面や生産量の減少を理由に、中国産の漆が9割以上を占めるまでになっている。この状況をあらためるため、漆の供給林を保護する政策を打ち出し、100%国産化を目指している。

また、美術館でしかお目にかかれないような豪華な蒔絵(まきえ)をほどこしたものは「漆芸」とよばれ、なんともいえない美しさがある。

【写真】江戸時代の手箱
  蒔絵の例(臼杵藩主稲葉家につたわる手箱) photo by gettyimages

深く黒光りする艶、あでやかな朱色、あくまで上品な輝きをみせる金や銀、虹色に輝く貝……。その吸い込まれるような美しさにはっとした経験をもつ読者も多いのではないだろうか。

のちほど述べるように、400年前の大航海時代、漆芸がほどこされた日本の家具や小物は世界から注目を集め、珍重された。

世界最古の出土品は9000年前

漆の歴史は古く、なんと9000年前の縄文時代にまでさかのぼる。

北海道の垣ノ島B遺跡から漆の装飾品が副葬品として出土しており、これが日本最古であると同時に世界最古とされている。ただし、漆は、植物としてのウルシの木もふくめて中国から伝来したというのが定説であり、中国で今後、より古いものが出土する可能性もある。

現時点で世界最古とされている縄文時代の漆は、いったいどのようなものだったのか。

糸か布状のものに赤く色づけされた漆が塗られた髪飾りや肩当て、腕輪のようなもので、体の各部位にあたる地点に配置されていた。垣ノ島B遺跡より少し新しい縄文時代の遺跡からは、黒漆の上に赤漆を塗った土器も見つかっている。

縄文人は、漆に強力な接着力があること、乾燥するととても硬く丈夫になること、表面が光沢をもつことを知っていて、漆を利用したのだろうか? 興味の尽きないところである。