北方領土交渉でロシアに傾倒しすぎる「安倍外交の危うさ」

ウクライナ危機後の北方領土交渉を読む

今年6月、ロシアのプーチン大統領が再び日本へやってくる。安倍晋三首相との日露平和条約交渉はどれだけ前進するのか。そして、果たして北方領土は返ってくるのか?

その答えを探るには世界地図の上下をひっくり返すようにして、物事をロシア側から見る必要がある。1945年以来、70年以上に渡って4島を実効支配しているのはソ連=ロシアに他ならないからだ。

ロシアは何を考え、どう動くのか。毎日新聞モスクワ特派員として2013年秋から17年春まで現地でプーチン政権をウオッチし続け、昨年末『ルポ プーチンの戦争』を著した真野森作記者が、中長期的な視点から読み解いてみた。

 

ロシアにとって北方領土は「大戦勝利の栄光」

「プーチンのいないロシアを実現しよう!」

2011年12月、ロシアは揺れていた。下院選挙の不正疑惑を巡って、モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市を中心に怒れる市民たちの大規模デモが全土へ広がった。辛くも政治危機を抑え、翌12年3月の大統領選挙で首相から返り咲き当選を決めた直後、プーチン氏は感極まって涙も見せた――。

プーチン体制下のロシアについてまず理解しておくべきは、民意あっての権威主義体制という実態だ。プーチン政権は“独裁”と語られることが多いが、世論を非常に気にしている。ウクライナなど旧ソ連諸国の一部で起きた「カラー革命」や中東での「アラブの春」のような政変を恐れているのだ。それゆえに野党指導者や非政府組織(NGO)への締め付けは厳しい。インターネットの利用規制も強化されつつある。

そんなロシアでプーチン氏の支持率を急上昇させる出来事が14年3月にあった。ウクライナ南部クリミア半島の一方的なロシア領への編入である。同2月に首都キエフで起きた政変で、反露・親欧米勢力がウクライナの政権を奪取したことに対して、一矢報いる形となった。クリミアは帝政ロシア時代からソ連時代の1954年までロシア領だった歴史があり、ロシア兵が血を流して獲得し、守ってきた領土であった。

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ロシア系住民の割合も高く、プーチン氏の編入宣言によってロシア国民の愛国ムードは沸騰した。さらに翌15年にはロシアは「第2次大戦勝利70周年」の節目を迎え、大規模な軍事パレードで戦勝国としての過去を内外にアピールした。こちらも愛国心を鼓舞する動きだった。

まさにその第2次大戦の末期、ソ連は日ソ中立条約を破って対日参戦し、南樺太(サハリン南部)や千島列島、北方四島(ロシア名・南クリル)を日本から奪ったのである。ロシア国民にとって南クリルはクリミア同様に兵士が血を流して獲得した領土であり、「大戦勝利の栄光」と結びついている。

プーチン政権にとって民意の動向は重要であり、民意は愛国心で団結する。ロシア国民から見た北方領土はクリミア同様、愛国心をかき立て得る土地だ。ロシア政府は「南クリルは戦争の結果として合法的にロシア領に編入された」と主張し続けており、日本側にこの考えを変えるすべはない。

ロシア側は“友好の証し”や“善意の表明”として日本へ島を贈与することのみ可能という立場だ。それも、軍事的要衝として重視する国後、択捉の大きい2島は論外であり、俎上にのぼり得るのは色丹、歯舞の小さい2島のみである。さらに今となっては1島とてタダでは譲れない。相当の見返りが必要である。「ロシア領なのになぜ日本に譲らねばならないのか?」という、ロシア国民からすれば当然の疑問に答えなければならないからだ。

そこで、プーチン政権のこれまでの言動を基に、ロシアにとっての日本に島を渡すメリットを考えてみたい。