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世界標準OS「TRON」の開発者はタリスカー30年を所望した

タリスカー・ゴールデンアワー23回(前編)

ボブ: そういえばこの間、スコットランドに行ったときにみたんですが、大麦の収穫機がGPSを使った自動運転で動いていました。

シマジ: コンバインに人が乗っていないの?

ボブ: 何かあった時のために一応乗ってはいるんですが、その時、乗っている人は本を読んでいました。

シマジ: それはすごい。本当に自動運転なんですね。

坂村: そう、自動運転技術は思った以上のスピードで進歩していますね。

ボブ: やっぱりAIの進歩が凄まじいんでしょうね。

坂村: ただ、いまいわれているAIのニューラルネットワーク原理というのは、20年前にすでに論文も出されていたんです。ただ残念なことに、原理はわかっていたのに技術的に実現出来なかった。そういうものは沢山あります。それがいまや完璧に動くようになったんです。

ボブ: やっぱりコンピュータの世界はドッグイヤーのスピードで進化するんですね。

シマジ: ドッグイヤーってなんですか?

坂村: 犬は人間の7倍ぐらいのスピードで年を取るといわれています。だからドッグイヤー。コンピュータの進歩はそれに近く、人間より進化のスピードがもの凄く速いということです。

シマジ: なるほど。20年前、教授が「どこでもコンピュータ」と予言した通りになってきていますね。

ヒノ: いまやシマジさんでもパソコンを使って原稿を書いてメールで送ってくる時代ですから、まさに「どこでもコンピュータ」です。

坂村: 20年前にそういうことを予言して、ヨーロッパの出版社から英語で書いた本を出したんです。そうしたらそれが評価されて、インターナショナル・テレコミュニケーション・ユニオン(ITU)という、国際電気通信連合のなかの、通信分野の標準策定を担当する部門から賞をもらいました。

シマジ: 教授は「TRON」の開発を評価されて武田賞ももらっていますよね。

坂村: ええ。TRONというのは、わたしが作ったリアルタイムOSのことなんですけど、じつはアメリカにあるIEEE(米国電気電子学会)というところがちょうだいというから、あげちゃったんです。その代わりTRONは国際標準になりました。

シマジ: 坂村教授が偉いのは、お金を取らないであげてしまう気前のよさですね。

坂村: 元々お金を取ってなかったから、あげてしまっても損はなかったんです。むしろ国際標準になったので、使う人が増えたことで、勝手に宣伝もして広めてくれますし、何も損はありません。やはりアメリカは力を持っていますね。日本人が作ったOSで世界標準になったものなんて、ほかに例がありませんから、名誉をいただいたということで、OKです。

わたしの作っているのは、モノのなかに入るコンピュータです。例えば、いまわたしたちを撮影している立木先生のカメラのデジタル制御部分とか、H2Aロケットとか、人工衛星のはやぶさとか、それからクルマのエンジンをコントロールする基盤とか、携帯電話の電波をコントロールするチップとか、いろんなモノのなかに入って働いています。

ヒノ: 坂村教授はTRONを最初から無償で公開していましたよね。

シマジ: 少しでもお金を取っていたら大金持ちになっていたでしょうに。

坂村: いやいや、最初から無料にしていたのがよかったんです。もしお金を取っていたらこんなに広がらなかったかもしれません。いまやいろんなところに使ってもらっているので、コンピュータのデザイナーとして、少しはやれたかなという自負はありますけどね。

ボブ: コンピュータに関してはアメリカは国際標準を決めるほど凄い国だったんですね。

坂村: その通りです。コンピュータが出来たきっかけは、第2次世界大戦を早く終結するための兵器として研究開発されたことでした。それで1946年にENIAC、49年にはEDVACというコンピュータが作られたのですが、アメリカの偉大さはそれから5年後の1951年に、民間に開放してしまったところです。世界最初のコンピュータ会社ユニバックが出来たのが1951年でした。いまのユニシスの前身です。

インターネットもそうですよ。1990年代に民間開放されたんですが、それまでは軍事機密のためのネットワークでした。当初はアーパネットといって、インターネットとはいわなかったんですよ。

しかし最初の汎用コンピュータを作ったユニバックという会社はもうありません。何度か合併を繰り返しユニシスになり、現在のユニシスはコンピュータ製造からコンピュータサービスとアウトソーシングへと業態を変えています。そんなわけでコンピュータ業界は絶え間なく激変する世界なんです。

シマジ: ではいま第一線で活躍している会社はどこなんですか?

坂村: 「GAFA(ガーファ)」といわれる、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルですね。もはやマイクロソフトもIBMもトップクラスには入っていません。びっくりするでしょう? でも、もうあと10年もしたら、ガーファじゃなくて全然聞いたこともない会社がトップに君臨している可能性だってあります。

立木: しかしシマジの鉄面皮もここまでくると本物だね。わかってもいないくせに、コンピュータの泰斗を向こうに回してよくぞここまで知ったかぶりを通せたものだ。おれは感心したぞ。

シマジ: タッちゃん、それはいわないでください。今日は薄氷を踏む思いで挑んでいるんですから。いままさに足元の氷にヒビが入りました。ボブ、タリスカースパイシーハイボールのお代わりをください。

⇒後編につづく

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飲酒は20歳になってから。
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お酒は楽しく適量を。
飲酒運転は法律で禁止されています。
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坂村 健(さかむら・けん)
工学博士、コンピュータアーキテクト(電脳建築家)。1951年、東京生まれ。慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程を修了後、東京大学理学部情報科学科の助手、同大学大学院情報学環教授を経て、現在は同大学名誉教授。1984年からTRONプロジェクトのリーダーとして、まったく新しい概念によるコンピュータ体系を構築して世界の注目を集める。現在、TRONは携帯電話をはじめとしてデジタルカメラ、FAX、車のエンジン制御と世界でもっとも使われている。IoT環境を実現する重要な組込OSとしてTRONは2018年IEEE(米国電気電子学会)の標準OS・IEEE2050となった。さらに、コンピュータを使った電気製品、家具、住宅、ビル、都市、ミュージアムなど広範なデザイン展開を行っている。2002年よりYRPユビキタス・ネットワーキング研究所長。2017年4月、東洋大学情報連携学部「INIAD」学部長就任。IEEE Life Fellow, IEEE CS Golden Core Member。2003年紫綬褒章受章。2006年日本学士院賞。2015年ITU 150周年賞。著書多数。
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。現在はコラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。
ロバート・ストックウェル(通称ボブ)
MHDシングルモルト アンバサダー/ウイスキー文化研究所認定ウィスキーエキスパート。約10年間にわたりディアジオ社、グレンモーレンジィ社、他社にて、醸造から蒸留、熟成、比較テイスティングなど、シングルモルトの製法の全てを取得したスペシャリスト。4ヵ所のモルトウイスキー蒸留所で働いた経験を活かし、日本全国でシングルモルトの魅力を面白く、分かりやすく解説するセミナーを実施して活躍しています。