〔PHOTO〕立木義浩
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世界標準OS「TRON」の開発者はタリスカー30年を所望した

タリスカー・ゴールデンアワー23回(前編)

提供:MHD

いまからちょうど20年前、わたしが集英社インターナショナルの発行人をしていたころ、東大の坂村健教授に『痛快!コンピュータ学』を書いてもらおうと閃いた。

まずわたしにもわかるように講義をしていただき、それを録音して速記に出して、その講義録を一冊にまとめようという算段で、坂村教授の了解を得ると、わたしは部下のサトウ・マコトを連れて東大の研究室に10日間通うことになった。

しかし初日から坂村教授とサトウは難解なことを話しだした。まったくちんぷんかんぷんのわたしは、前夜の深酒の影響もあって、あろうことか、イビキをかきながらうたた寝をはじめてしまった。それを目の当たりにした坂村教授は激昂することなく優しくこういったそうである。

「サトウさん、シマジさんがわたしたちの話を聞いて居眠りをしてしまうような内容ではダメですね。もう一度仕切り直しましょう」

ちょうどそのときわたしは目を覚ました。

「シマジさん、コンピュータが2進法で動いていることはご存じですか」
「まったく知りません。いまはじめて聞きました」
「コンピュータは1と0の組み合わせで動いているんですよ」

こんな感じで、コンピュータを触ったこともないわたしにもわかるように、坂村教授は懇切丁寧に講義をしてくれたのだった。そして1999年11月、『痛快!コンピュータ学』は無事に上梓され見事ベストセラーになった。現在も、集英社文庫にラインナップされ多くの方々に読み継がれている名著である。

(構成:島地勝彦、撮影:立木義浩)

* * *

シマジ: 坂村教授、お久しぶりです。

坂村: シマジさんは相変わらず立木先生とコンビを組んでいらっしゃるんですね。

立木: シマジとは完全なる腐れ縁だね。

シマジ: わたしは巨匠の七光りをお借りして仕事をしているんですよ。

ボブ: ではいつものように、タリスカースパイシーハイボールで乾杯しましょうか。

シマジ: ボブ、坂村教授にはもうちょっと濃いめに作ってあげてくれる。

坂村: いやいや、薄めでいいですよ。この後、タリスカー30年をいただこうと思っていますから。

ボブ: タリスカー10年を3杯分入れましょうか。

坂村: アッハハハ。この人は何をいってるんだろう。おもしろいねえ。ボブさんが日本で最初に住んだのは大阪じゃないですか。

ボブ: はい。吉本興業の養成所に通って日本語を学びました(笑)。それでは、皆さんご一緒に、スランジバー!

一同: スランジバー!

坂村: いやあ、うまいですね。この粗挽きの黒胡椒がいいアクセントになって、ただのソーダ割りとは一味も二味も違う奥行きが生まれています。30年の味は格別ですが、この飲み方なら10年がちょうどいいですね。畏まった感じがなくて。

シマジ: そうでしょう。わたしはこのタリスカー10年とスパイシーハイボールのセットを行きつけの料理屋に常備していて、食前にも食中にも飲んでいます。

さて、最近改めて『痛快!コンピュータ学』を読み返してみたんですが、あれは本当に名著ですね。いま読んでもぜんぜん色褪せていません。

坂村: あれはシマジさんがコンピュータにまったく縁がなくて何も知らなかったからこそ生まれた奇跡の一冊です。シマジさんレベルにもわかってもらえるように、苦労に苦労を重ねて作った本ですからね。AIやら何やらという応用的な部分は飛躍的に進化していますが、根幹となる部分は昔も今も変わりません。

シマジ: コンピュータというのは20世紀最大の発明だったんですよね。

坂村: まったくです。これほど人間の生活に影響を与えたものはほかにないでしょう。

シマジ: やはり初期のコンピュータに関しては、ハンガリーからアメリカに移住してきたユダヤ人数学者、ジョン・フォン・ノイマンの功績が大きいのですか。

坂村: ノイマンは大変な天才で、20世紀科学史における最重要人物の一人です。レオナルド・ダヴィンチの再来ともいわれています。そして彼が考案した「ノイマン型」というのが、70年以上変わらないコンピュータシステムの基本構成となっています。

シマジ: いまでもコンピュータはノイマンタイプが多いんですか。

坂村: いまでも99%のコンピュータがそうですよ。

シマジ: ただ、ノイマンは当時「コンピュータはビルのように大きくなる」と予言していたそうですが、その予言だけは当たらなかったですね。

坂村: たしかに当たらなかったですね。

ボブ: 逆にどんどん小さくなって、いまではスマホのように手のひらに乗る大きさですね。

シマジ: えーと、それを何の法則といいましたっけ…。

坂村: 「ムーアの法則」ですね。インテルの創業者のひとりゴードン・ムーアが論文で示した半導体業界の経験則のことで、要するに、コンピュータはどんどん小さくなっていき、逆に性能はどんどん上がっていく、という法則みたいなものがあったんですが、そろそろ打ち止めにきています。いま、一個のコンピュータの限界に到達しつつあります。

シマジ: 20年前、スーパーコンピュータはこれからまだまだ活躍すると、教授は仰っていましたが、いまはもうスーパーコンピュータはそんなに進歩がないというか、人気がなくなってしまったんですか。

坂村: いやいや、そんなことはないですよ。いまのスーパーコンピュータは、20年前のスーパーコンピュータとは桁違いの、もの凄い性能を実現していますから。

シマジ: 100倍ぐらいですか?

坂村: そんなレベルではありません。もう、それこそ何万倍という進歩です。20年前のスーパーコンピュータは、いまのスマホ以下です。

シマジ: 今日はそういうお話を聞かせてください。取材当時、坂村教授はたしか「コンピュータにおいて、21世紀はそんなに革新的な進歩はないだろう」と仰っていましたが、結構進歩はあったんですね。

坂村: いまの状況というのは、情報科学をやってる人にとっては、だいたい思った通りにきているんですね。ただ、社会にここまでコンピュータが行き渡って、個人がいくつものコンピュータを持つ時代になるというのは、ある程度は予測されていたとはいえ、20年前の想像とはいくつかちがうところがあるんです。

ひとつは応用の拡がるスピードが想像以上に早いことです。製造業にコンピュータが入るのは当たり前だし、もちろん自動車のなかにも入っていますが、いままではあまり関係ないと思われていた農業や漁業などにもコンピュータが入ってきた。これは大きな飛躍です。