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「違法ダウンロードの範囲拡大」に潜む、重大な問題点

世界的に見ても異例な広範囲
SNSのタイムラインに流れてきた画像を気に入ってスマホに保存。そんな誰もが日常的に行なっている行為が違法となり、場合によっては刑事罰まで科される可能性がある。

そんな信じがたい内容が盛り込まれた著作権法の改正案の方針が、去る2月13日に開催された文化審議会著作権分科会で了承され、今国会で提出される見通しだ。

「著作権侵害だと知らなければ免責される」という条件つきだが、それでも、いや、だからこそ、同改正案はクリエイティブな活動を行うすべての人、そしてジャーナリズムにとって重大な問題をはらんでいる、と明治大学教授で日本マンガ学会理事の藤本由香里氏は指摘する。具体的にどういうことなのか、これまでの流れをおさらいしながら藤本氏に解説してもらった。

目的は海賊版マンガサイトの規制のはずが…

「漫画村」などの海賊版マンガサイトの規制の要請に端を発したダウンロード違法化の範囲拡大が大きな議論を呼んでいる。

問題は、違法化の範囲が海賊版対策の範囲を大きく逸脱し、一般の人がメモ的にウェブのスクリーンショットをとっただけでも、その中に著作権を侵害するコンテンツ(引用の要件を満たしていない転載や、許諾を得ていないTwitterのアニメアイコンなど)が含まれていれば違法となり、刑事罰まで科される、という方針が打ち出され、それが今(2019年2月19日現在)でも基本的には変わっていないからだ。

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発端は昨年の12月、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会による著作権法改正の「中間まとめ」が示され、広くパブリックコメントが求められたことに遡る。音楽と動画に関しては、2009年から海賊版のダウンロードは違法とされ、2012年からは刑事罰の対象にもされていた。

そして今回、それに加えて海賊版マンガのダウンロードが違法対象に加わる――のかと思いきや、「中間まとめ」で示されたのは、「著作物の種類・分野による限定を行うことなく広くダウンロード違法化の対象範囲に含めていくべき」という方針であり、その「方向性については、概ね共通認識が得られた」との記述があった(その後の報道で、実は委員会内部でもこの方針に強い疑問を呈する声が多かったことが判明する)。

 

「日本のイラスト界は壊滅するのではないか」

これに対し、私が理事を務める日本マンガ学会(竹宮惠子会長)は、パブリックコメントで反対の意を表明し、さらに1月23日、「ダウンロード違法化の対象範囲拡大に対する反対声明」を発表した。

簡単にまとめると、主な論点は次の4つである。

1.  海賊版研究だけでなく、二次創作研究もできなくなる。

2. インターネット上の記事や図像をメモ的にウェブクリッピングすることは誰もが日常的に行っている行為であり、これを違法化することは、広範囲での研究・創作の萎縮を招く可能性が高い。

3. 動画や音楽の違法アップロードと違い、静止画や文章が「違法」アップロードであるかどうかは判断が難しい。たとえば短文のSNS等で正確な出所が示されていない記事はすべて「違法」と判断されかねない。

4. ダウンロードを違法化しても、「漫画村」のようなストリーミング方式の海賊版はまったく取り締まることができない。音楽や動画に関してもこれまでに逮捕者は出ておらず、今回の改正は、悪意ある侵犯者に対してはまったく効果がなく、逆に一般ユーザーの萎縮を招き、研究・創作を著しく阻害する最悪の結果となることが予想される。

この声明は反響をよび、いくつかの新聞やネットニュースでも取り上げられた。そして2月8日、参議院議員会館で、「違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会」が開かれ、慶應義塾大学法学部教授の大屋雄裕氏、マンガ家の赤松健氏、そして日本マンガ学会の竹宮惠子会長と私が出席することとなった。

この席上でマンガ家の赤松健氏は、「マンガ家の権利を守ってくれようとするのはありがたい」としながらも、「これは僕のHDDの中身です」と画像を見せて、自身のHDDの中にも「たくさんのイラスト画像を保存している。とくにスポイトツールを使って色合いを参考にすることが多い。保存している画像の中には二次創作のものも交じっているし、いちいち合法か違法かを気にしてはいない。こうしたダウンロードがダメということになると日本のイラスト界は壊滅するのではないか」と指摘した。