あなたは「第3の給与」をご存じだろうか? 給料でもボーナスでもない「ピアボーナス(従業員同士が贈り合えるボーナス)」を授受できるITサービス「Unipos(ユニポス)」がいま話題になっている。

海外の企業では珍しくないというこの仕組み、日本ではたして根づくのか。同サービスを開発したUnipos株式会社の斉藤社長に、その誕生秘話から導入メリット、気になる費用対効果について訊いた。

取材・文/黒川なお、撮影/白井智

社内に感動を生む「第3の給与」

「このメッセージを読んで、涙が出そうになるくらい嬉しかったんです」

こう語るのは、「ITリテラシーゼロ」を自認していた老舗企業のスタッフだ。

創業133年、平均年齢45歳、2014年までメールアドレスやPCさえなく、ITとはほぼ無縁だった株式会社カクイチで、彼女は販促用のポスター制作に長年携わってきた。最初は手書きから始まり、今ではイラストレータも使いこなし、みんなが使いやすいポスターを作ろうと自らのスキルを地道にブラッシュアップしてきた。

けれども、会社のみんなから改めて感謝されることなどほとんどなかったという。だからこそ余計に驚いた。これまで一緒に働いてきた別拠点の同僚から思いがけず感謝のメッセージを受け取ったとき、ちゃんと見ていてくれた人がいるんだと知り、心の底から嬉しかったという。

この変化にはわけがある。カクイチが「Unipos」を導入したことが発端だ。Uniposは、「第3の給与」と呼ばれるピアボーナスを授受できるITサービスのこと。給料には俸給、成果給とあるが、それに続くのがピアボーナスだ。これが「第3の給与」と言われるゆえんである。

俸給や成果給は、会社に対する貢献を上長が定量的に数値化して決め付与するもの。一方でピアボーナスは、金額としては一番小さいが、自分がいいと思った人に直接渡すことができる。

感謝の言葉とともに、ピアボーナスという少額の成果給を従業員同士で送りあうプラットフォームを取り入れたことで、社内の「感謝の流通」に革命が起きたのだ。

Uniposによって、これまで社内で気付いてもらえなかった、あるいは見過ごされてきた「見えづらい貢献」にスポットライトが当たるようになった。その結果、全国の拠点をまたいで「感謝」が飛び交い、前向きなコミュニケーションが活発化しているのだ。しかも、意外にも50代以上のスタッフの利用が盛んとのこと。世代を超えたコミュニケーションがどんどん生まれているという。

「いわゆる1次産業、2次産業を軸にした伝統ある企業で、全社を通してIT化しましょうと言うと、軋轢だって生まれそうなものです。反対派がたくさん出てきてもおかしくありません。けれども、カクイチさんでは年齢を問わずUniposを活用いただいているようで、中でも今一番利用率が高いのは40、50代の社員の方たちだと聞いています。この話を聞いた時、これまで日本の組織に足りなかったものをシンプルに提供できている、そういうサービスなんだと実感しました」

こう話すのは、Unipos株式会社代表取締役社長の斉藤知明さんだ。
*以下、特に断り書きがなければ「」内は斉藤さんの発言

実は、ピアボーナスの仕組み自体は、今やそれほど珍しくはない。これまでグーグルをはじめ、とくに海外の企業では積極的に取り入れられてきた。

この背景には、上司が部下に金券を送るのはごく一般的なことと受け止める、海外企業に多く見られる企業文化がある。さらに海外では、会社から送られた金券は、一定額まで課税対象外になっていることが多い。そのためピアボーナスを同僚間で交換するのも、違和感なく受け入れられる土壌がすでにあるのだ。

「自分の仕事の範囲がきっちり決まっていることも多いのが海外企業です。ただイノベーションは、職種や仕事をまたいだコミュニケーションの横断がないと生まれづらい。これはどこの国でも共通です。こうした背景からコミュニケーションの横断活動を活発化させ、かつ加速させるために、ピアボーナスの仕組みが良いツールになっているんです」

ピアボーナスを積極的に取り入れる企業の戦略性について、斉藤さんはこう話す。

自社を「実験台」にしたサービス

日本でもメルカリ、サイバーエージェント、Sansan、マクロミルなど勢いのある中小企業を中心に、Uniposの導入が相次いでいる。2017年6月29日にサービスがリリースされてから約1年半。2019年1月にUniposの導入企業は200社を超え、現在もその数を飛躍的に伸ばし続ける。

では、Uniposの仕組みや日本の企業が導入するメリットは具体的にどういったものなのか。詳しく見ていきたい。

改めてUniposは、「〇〇さん、こういうことをしてくれてありがとう、100円」といったように、従業員同士が、感謝のメッセージを少額の成果給とともに送りあうサービスだ。お互いの貢献を認め合い、そのやり取りを社内のみんなが見えるようにすることで、信頼し合える組織づくりを支援することが狙いである。

Uniposは、もともと親会社であるFringe社に前身となる社内サービスがあり、そこから派生した会社であり事業だ。

社員数が30人から40人ほどに増えた6、7年前、他の人が何をやっているのか見えづらくなり、エンジニアの貢献感が薄れてきたことが課題だった。そこで、従業員同士が行動を称え合うことでお互いを知り、認め合える関係を作ることを目的にした「発見大賞」という独自制度を制定。自社を一番の実験台にしながら、サービスをブラッシュアップしてきた。