2019年のカーリング日本選手権は中部電力が優勝を飾った(撮影/竹田聡一郎、以下同)

初心者、運動オンチでも間に合う! 北京五輪に出ちゃいませんか?

カーリング経験10ヵ月で日本選手権!

昨年の平昌五輪で女子日本代表が銅メダルを獲得したカーリング競技。彼女たちの笑顔は日本だけでなく海外のファンも魅了し、道産子イントネーションの「そだねー」は流行語大賞を受賞するほどのブームになった。

あれから1年。次回の世界選手権代表の座をかけて日本一を争う大会が札幌で開催された。オリンピック経験者を含む日本のトップカーラーたちが勢揃いして、「静かな決闘」と呼ぶにふさわしい熱戦が6日間にわたって繰り広げられたのだが、なんと、そのなかに、平昌五輪以前は一度もあのブラシやストーンに触ったこともなかった選手がいたという。

 

去年の平昌五輪後にカーリング初体験

北海道札幌市のどうぎんカーリングスタジアムで2月12日から17日まで開催された「第36回 全農 日本カーリング選手権大会」。女子の部は、本命視されていた平昌五輪銅メダルチーム、ロコ・ソラーレを破った中部電力が全勝で2年ぶりの優勝を果たした。

大会MVPの中部電力の北澤育恵をはじめ、各チームの選手が「今大会は本当にレベルが高い」と口を揃えたように、接戦、熱戦が多く、史上初めて全試合有料興行となった大会はおおいに盛り上がった。アイス内外で実りの多い1週間だったのではないだろうか。

会場には連日、大勢のメディアとファンが詰めかけた

そんななか、ある意味では最も劇的な体験をしたコンビがいる。女子の西日本ブロック代表、チーム京都でリードを試合ごとに交代で担った安丸真衣(やすまる まい)選手と後藤彩乃(ごとう あやの)選手だ。

なんとこの2選手、カーリングを初めてまだ1年未満だ。連日、ゲームを中継してくれたNHK-BSの特設サイトによれば、カーリング歴は「1年」となっているが、正確に言えば約10ヵ月だ。

「元々、カーリングファンでした。ロコ・ソラーレが銀メダルを獲した世界選手権もずっとテレビで観てましたし、もちろん平昌五輪も」

そう語る安丸選手が、京都府カーリング協会が主催する体験会に参加したのが2018年3月のことだ。

続いて4月、元同僚の後藤選手を誘って今度は岡山での体験会に出かける。

「思ったより氷の上を転ばずに滑ることができて、それが楽しかった」

後藤選手は詳しいルールもショットの種類も知らなかったが、「徐々にそれっぽくなっていったのが嬉しかった」と、加速度的にこの氷上スポーツにのめり込んでゆく。

左、安丸真衣選手、右、後藤彩乃選手

6月に京都協会主催の練習会で、今季のチームメイトとなったチーム京都のスキップ・辻美奈子選手に出会った。辻選手はカーリング歴9年ながら日本選手権最高位は5位というキャリアを持つ、勝負強いカーラーだ。そのリーダーの御眼鏡にかなったのは、安丸、後藤の両選手はどんなところだったのだろうか。

辻選手は振り返る。

「技術や筋力云々よりも、とにかく熱心に楽しそうにプレーしていたのが印象的でした。ちょうど前のシーズンに一緒にやっていたメンバーが仕事や家庭の都合で今季はなかなかアイスに乗れないでいて、『今年は活動できないかもね。全日本(日本選手権)も諦めようか』と話していたんですが、二人の姿を見て『やってみる?』と声をかけました」

それからは週末ごとに、札幌、軽井沢、御代田、京都、なんば、梅田、神戸、岡山という、カーリング専用ホールだけではなく、アリーナなど、氷があるところにどこまでも出かけて練習を積んだ。

その甲斐あってか京都選手権で優勝すると、年末に島根県浜田市のサンビレッジ浜田で行われた西日本選手権も制し、見事に国内最大タイトル・日本選手権出場の切符を手に入れる。辻選手は苦笑いを浮かべながら率直な気持ちを教えてくれた。

「西日本選手権、今年は6チームだったのでAクラス、3位以内を目標にしていたんですけど、なんと勝ってしまうとは。正直、嬉しいというより、これはえらいことになったぞという気持ちのほうが強かったですね」

安丸選手と後藤選手は、栄養士として勤務する大阪府高槻市立赤大路小学校、京都府長岡京市立長岡第十小学校、それぞれの職場の理解と「頑張ってこい!」というあたたかい声を受け、札幌へ飛んだ。

この日本選手権も勝つと、今度は3月にデンマークで行われる世界選手権へ向かうことになるが、さすがにシンデレラストーリーも、今季はここまでだ。

初日からオリンピアン3人を擁する北海道銀行フォルティウスに2-12で大敗すると、その後のゲームも主導権を握れず、ロコ・ソラーレにも1-17というスコアで敗れる。

結局、8戦全敗で大会を去ったが、安丸、後藤両選手は目を輝かせて、憧れのロコ・ソラーレと試合の感想を語ってくれた。

安丸「当たり前なんですけど、(ロコ・ソラーレの)みなさんデリバリーがすごく綺麗で。静止画のまま進んでるみたいやった」

後藤「テレビ観てるみたいで、めちゃカッコ良かった。あんな風に投げられるようになりたい。もっと上手くなって(日本選手権に)帰って来たいです」

安丸「作戦のこととか、まったくわからんままなので、ホンマのカーリングの面白さ、本質にも気づいていないかもしれないけれど、それでもこんなに面白かったから、続ければもっと面白くなると思う」

戦術は勉強中。投げられるショットも1種類。それでも、3度も五輪出場を果たした名手・船山弓枝や、世界的スキップとなったメダリスト・藤澤五月と同じアイスを踏み、同じ石の挙動に注視した。

客観的に観ても勝機は限りなく薄かったし、スポーツに「たられば」は禁物だが、もし来季、また日本選手権に戻って来て優勝すれば北京五輪の代表候補に名乗りを挙げることなる。笑う人もいるだろうが、可能性はゼロではない。同様の経験や成り上がりを実現ができるスポーツが他にあるだろうか。

最後に、安丸選手に「やはり五輪出場を夢みたりするんですか?」と聞いてみる。

「いやいや、そんな、まさか。まずは西日本で楽しく続けられることが目標です」

後藤さんには「これからカーリングを始める、あるいは始めようとしている方にメッセージを」と促した。

「体験会や練習会を運営してくれているスタッフ、あとは全国どこに行ってもホールの人はみんな親切でしたので、ぜひ気軽に参加してみてください」